「やる気」を出して歯を磨く人はいない
なぜかメールの返事をすぐ書く気になれず、後回しにしてしまう。企画書に着手しようと思いながら、気づけば別の作業をしている。「あとでやろう」の連続で、夕方には仕事が山積み……。そんな先送りグセにうんざりしている人は多いはずです。じつは「すぐやる」は生まれつきの性格ではなく、技術で身につけることができます。
かくいう私自身、筋金入りの三日坊主でした。しかしそんな私でも「すぐやる」がクセになるような習慣化のアプリを開発しようと、たくさんの人の挫折経験を聞いたり、約200万人の行動データを分析したりした結果、「すぐやる人」になるためのコツが見えてきたのです。それは「目標をすごく下げる」「例外をつくらない」「条件(行動するタイミング)を決める」の3つ。この三原則を守った人の30日間継続成功率は、守らなかった人に比べて最低でも8.23倍高いことがわかっています。
私は「習慣」とは、努力や無理をしているという苦しい感覚がなく、ほぼ自動的に行動できる状態だと定義しています。歯を磨くとき、やる気を出している人はいないでしょう。それと同じように、メールを見た瞬間に返信を書き始める、企画書のファイルを開いてまず見出しだけ打つ――こうした行動が何も考えなくても体が動く状態になること。これが「すぐやる」の正体であり、習慣化のゴールです。
しかし残念ながら習慣になるまでは、つらいけどがんばるしかない期間がどうしても発生します。なぜなら人間はいつもと同じことをするほうが楽だから、新しいことをやろうとすると抵抗が生まれるからです。物体が元の状態を維持しようとする物理の法則を「慣性の法則」といいますが、人間の心理にも同じような現状維持の力がはたらく。ということは、「新しいこと」が「いつものこと」になるまでの苦しい期間さえ乗り切ればいいわけです。この過渡的な期間はどうしても避けられないので、いかにこの時期の苦しさを減らすかが勝負になります。
そのためにまず有効なのが、さきほどの三原則の1つめ「目標をすごく下げる」こと。いきなりハードなことをやろうとすればするほど慣性の法則がはたらき、強い力で現状に引き戻されてしまう。ところが人間は目標を立てるときは、やる気に満ちているせいか、無意識に高い目標をイメージします。たとえば「企画書を一気に仕上げよう」と思えば、少なくとも1時間はかかるでしょう。筋トレや読書でも同じですが、60分以上の目標を掲げた人たちは、なんと94.3%が挫折しています。どんなにモチベーションが高くても、習慣化というのは想像以上に難しいものなのです。
したがって何かを習慣化させたいなら、まずは準備も含めて1日5分くらいでできる低い目標を立てること。家で寝転がっていた人がジムに行くまでには、外に出られる格好に着替えて、タオルや着替えをスポーツバッグに詰め、ジムまで移動するという手間がかかります。しかし、家でテレビを見ながら5分間スクワットをするぐらいなら、わりと抵抗なくできるのではないでしょうか。しかしたった5分でも、最初はきついと感じるはずです。
仕事のような「やらなきゃいけない」場面でも同じ原則が当てはまります。筋トレのように「やらなくてもいいこと」は、やる量を減らすのが目標を下げるということ。一方、企画書のように「どのみちやらなければいけないこと」の場合、問題は量ではなく「いつ手をつけるか」です。だから目標を下げるとは、着手のハードルを下げること。「企画書を完成させる」ではなく「ファイルを開いて見出しだけ打つ」なら準備込みで5分もかからない。じつはこの「最初の5分」が大事で、手をつけてしまえば意外とそのまま書き進められることが多い。目標は5分でも、実際の成果は30分、1時間と膨らんでいきます。
「メールをすぐ返す」「使ったものをすぐもとの場所に戻す」というような目標も同じで、これも普段と違うことをやろうとしている状態です。常にすぐメールを返す人だったら、何も考えずに条件反射的に返信を書けるし、使ったものをすぐに戻せる人は何も考えずにものを片付けられる。でもそうでない人がそれをしようとすると、「うわ、めんどくさい」となる。ここで大事なのが、三原則の2つめ「例外をつくらない」です。
行動と行動を結びつけて「一連の流れ」にしてしまう
そもそも、習慣化とはどういう現象かというと、同じ条件のもとで同じ行動を何度も繰り返すことで、脳が「この状況ではこうするんだな」というルールを覚えて、毎回いちいち判断しなくても体が勝手に動くようになることです。勝手に動くようになるためのポイントは「同じ条件で同じ行動を毎回繰り返す」こと。
メールを読んだらすぐ返す日もあれば、あとで返す日もある――こうなると脳は「メールを読んだらすぐ返す」というルールを覚えられません。「その日のうちに返したからいい」は習慣化においては「例外」扱いになります。例外が一回でもできてしまうと、脳の自動化がリセットされてしまうのです。実際、習慣化しようとした行動を一度中断してしまうと、7割の人がそのまま継続しなくなってしまうことがデータで明らかになっています。
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