頼まれると断れない。そんな自分を「誠実だ」と思っていないか。しかし、いまや断れない人ほど信頼を失い、断れる人ほど評価される。2人の「断りのプロ」に「ノーと言う技術」の真髄を聞いた。

断れない人はなぜ損をするのか

まず、断れない人には、共通した思い込みがあると石川氏は言う。

「一番大きいのは『嫌われたくない』という心理です。断る=相手にマイナスの印象を与えるという思い込みがある。特に真面目で『いい人』と言われる人ほど、関係を壊したくない、評価を下げたくない、空気を悪くしたくないという気持ちが強く働きます。しかし実際は、断らないことで信頼を下げるケースのほうが多い。キャパオーバーで質が落ち、約束を守れず、結果、迷惑をかける。それがリスクなんです」

石川和男氏
石川和男 Kazuo Ishikawa
1968年生まれ。北海学園大学経済学部卒。建設会社役員、大学講師、セミナー講師、人材支援開発会社COO、税理士、作家など、9つの仕事を掛け持ちするスーパーサラリーマン兼時間管理の専門家。『「会社員」として生きる。』(きずな出版)など計34冊の著書がある。

石川氏自身にもかつて、その経験があった。会社でバンバン仕事を振られ、パンク寸前になったとき、石川氏が取った行動は「見える化」だった。やるべき仕事をすべてノート1冊に書き出し、そのまま上司に見せた。

「やる気はある。でも、このままでは期限のある仕事が終わらない」と伝えたところ、派遣社員を雇ってもらえることになった。黙って抱え込まず、「断る根拠」を示したのだ。

断れない背景には「自分の時間の価値を低く見ている」という問題もある。「断れない人は他人の時間には敏感なのに、自分の時間を軽く扱っています。頼まれたらすぐ引き受ける。空き時間は使っていい時間だと思っていて、『ちょっとだけなら』と安請け合いをする。誰かの依頼を受けるということは、必ず何かを捨てているということ。この認識がないと、断る判断ができない。さらに言えば、日本の教育や職場文化では、断ることへの罪悪感が強く刷り込まれています。でも本来、断るとは『優先順位を守るための意思決定』なんです」

断れないことで失うものは、時間だけではない。「何でも受ける人は周囲から『便利屋』として扱われ、一つ一つの仕事の価値が希薄化してしまいます。自分しかできない仕事のクオリティも下がる。何でも引き受けることで、かえって自分の価値が下がっていくんです」

かつては、「残業してでもいいものを」が美徳だった。しかし、今は「限られた時間でいいものを」が求められる時代だ。「断らない人=指示待ち人間」と見なされ、「断れる人=自己判断できる人材」として評価される。そんな価値観の転換がすでに起きている。

石川氏が断る際の基準として真っ先に挙げるのが「余白の確保」だ。

「仕事ができるリーダーほど、スケジュールを100%まで埋めません。常に20%の余白を確保しています。なぜなら、組織には必ず想定外のトラブルや、千載一遇のチャンスが舞い込んでくるからです。そのときに『今、手一杯です』と言って動けないと大きな損失になる。余白を守るためにNOと言えるかどうか。それが、仕事ができるリーダーとできないリーダーの分かれ目だと考えています」

断りのプロが実践している今日からできる3つの習慣

一方、プロ営業師の高山氏は、断りの大前提として「無傷の断りなど存在しない」と語る。

(文=本誌編集部 撮影=藤中一平)