高市早苗首相の発言を受けた中国当局の「訪日自粛」要請で、行き場を失った中国人観光客がロシアへ殺到している。だが「友好国」の実態は、ぼったくりツアー、スマホ不通、そしてバイカル湖での7人の死だった。海外メディアは、中ロ「友好」の歪んだ現実を報じている――。
2026年2月4日、ロシア・モスクワのクレムリンにて、ビデオ会議で中国の習近平国家主席と会談するロシアのウラジーミル・プーチン大統領
写真=EPA/VYACHESLAV PROKOFYEV/SPUTNIK/KREMLIN POOL/時事通信フォト
2026年2月4日、ロシア・モスクワのクレムリンにて、ビデオ会議で中国の習近平国家主席と会談するロシアのウラジーミル・プーチン大統領

バイカル湖に呑まれた7つの命

ロシアのシベリア南東部に位置し、世界で最も深い淡水湖であるバイカル湖は、冬になると厚い氷に覆われる。その透き通ったブルーに惹かれ、世界中から旅行者が押し寄せる。

そのバイカル湖で、今年2月20日に悲劇が起こった。中国人観光客8人を乗せたロシア製のミニバン「UAZ(ワズ)」が、きちんと整備されていない氷上の道路を走行中、足下の裂け目に呑み込まれたのだ。

車両はわずか数分で水面下に沈み、14歳の少年を含む7人が命を落とした。中国国営英字新聞のチャイナ・デイリーによると、この少年は中国から来た4人家族のひとりだったという。一家全員が犠牲になった。生き残ったのは、沈みゆく車両から自力で氷の下を脱出した別の乗客1人だけだった。

予備調査で浮かび上がったのは、安全管理上の問題だ。旅行者は正規の旅行代理店を通さず、地元住民によるツアーを直接手配していた。走行ルートを代理店にも救助機関にも伝えた形跡はなく、そもそも走っていたのは公式に開設された氷道ですらなかった。

公式の氷道であれば定期的に厚さが検査され、専用の標識も設けられる。だが事故現場の氷は、車両を支えるだけの厚さがなかった。折しも異常な気温上昇により、湖面は至る所でひび割れていた。目撃者によれば、ドライバーはその亀裂を前にしても停車も迂回もせず、かえって加速して突っ切ろうとしたという。

凍結したバイカル湖
凍結したバイカル湖(写真=Simon Matzinger/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

「友好国」ロシアに200万人が殺到

中国人観光客がバイカル湖の氷上に殺到したのは、高市早苗首相の「存立危機事態」発言に中国当局が反応し、日本への旅行自粛を求めたためだ。

日本を敬遠した中国人旅行者が向かった先は、ロシアだった。ロシア独立系英字紙のモスクワ・タイムズによると、2025年12月、訪日中国人が急減するのと時期を同じくして、ロシアへ流れる旅行者が増えたという。

デジタルマーケティング企業チャイナ・トレーディング・デスクのスブラマニア・バットCEOによれば、同月の中国人によるロシアのホテル予約は前年同月比で約50%増。ロシアを訪れた中国人は2024年に約120万人、2025年は推定約130万人にのぼる。ビザ免除措置でさらに30〜50%の増加が見込まれ、2026年には約200万人に膨らむとの予測もある。

急増のきっかけは、2023年8月に再開された中露間のビザなし団体旅行プログラムだ。独立系ロシア語ニュースサイトのメデューザによると、2024年にツアー経由でロシアを訪れた中国人は約84万8000人。前年の約20万人から、わずか1年で4倍以上に膨れ上がった。大手旅行会社インツーリストは、2024年夏だけで35万人がこのプログラムを利用したと明かす。同社の中国人客は通年でも前年比150%増だった。