中国国防省は1月、張又侠と劉振立の軍幹部ふたりが「重大な規律・法律違反の疑い」で調査されていることを発表した。静岡大学教授の楊海英さんは「張又侠という最後のブレーキを失ったことで、中国は歴史的な転換点に到達した」という――。(聞き手・構成=伊田欣司)

そして軍幹部7人体制は、たった2人に

2026年2月11日付のロイター通信の記事「習近平、最近の軍粛清に言及」は、世界の中国ウォッチャーに静かな波紋を投げかけた。習近平国家主席が軍関連の会合で最近の軍内動向に言及し、軍の一部に「深刻な腐敗」が存在し、戦争準備や任務遂行能力に影響を及ぼしたと語ったと報じたからだ。習主席はさらに、腐敗との闘いを通して中国軍が「革命的改造」を経験したと述べたと伝えている。

静岡大学教授の楊海英さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
静岡大学教授の楊海英さん

習主席がいう「深刻な腐敗」と「革命的改造」は、中国国防省が1月に発表した中央軍事委員会(CMC)副主席のちょう又侠ゆうきょう、聯合参謀部参謀長のりゅう振立しんりつの軍幹部ふたりが「重大な規律・法律違反の疑い」で調査されているという発表だ。

CMCは元来7人で構成されていた。ところが2023年以降、国防大臣の尚福しょうふく副主席の衛東えいとう、政治工作部トップのびょうが相次いで失脚。今年1月に張又侠と劉振立が調査対象となり、残ったのは習近平と軍の反腐敗を担当するちょう昇民しょうみんだけだ。CMC7人中の5人が失脚という異例の事態を迎えている。

張又侠たちへの調査内容について、具体的な説明はない。従来の反腐敗案件と同様の形式をとっていた。

つかみきれない不可解な「異変」

ところが後日、軍機関紙「解放軍報」は社説で、両氏が「中央軍事委員会主席責任制を深刻に踏みにじった」と厳しく非難した。主席責任制とは、軍の最終決定権が習主席に集中する制度。金銭的不正や規律違反ではなく、軍の指揮権構造そのものを損なったと位置づけたことになる。

2月に入って習主席自身が「軍の腐敗が戦備や任務遂行能力に影響した」と述べたことで、幹部たちの個別案件から軍全体の体質や戦力に関わる問題へと引き上げられた格好だ。情報が乏しいだけに疑問は尽きない。

実際、1月20日前後には不可解な「異変」が伝えられた。北京首都空港や上海、成都で大規模な欠航・遅延が発生し、海外のSNSでは「北京で軍同士の銃撃戦があった」「首都が封鎖された」「クーデター未遂だ」などの情報が飛び交った。香港の消息筋からは「明らかに政変だ」とも伝えられた。