CIAの「協力者募集」動画が意味すること

武力衝突や空港封鎖を裏づける証拠がない一方で、「クーデター」との表現が説得力をもつのは、張又侠らが軍関連の会合を欠席した数日後に調査対象となって公の場から姿を消し、軍機関紙が「主席責任制を踏みにじった」と異例の断罪を示したからである。

軍の混乱に追い打ちをかけるように、米中央情報局(CIA)が2月12日、中国語で“協力者募集”の動画を公開した。SNSで拡散された動画は、ターゲットを「幻滅した中堅の中国軍将校」と明示し、秘匿性の高い通信手段や匿名での連絡方法まで具体的に示している(参考:「米CIA、中国軍当局者に協力呼びかける動画を公開 軍幹部粛清に乗じ」CNN 2026.02.13)。

CIAの動画は、実際にスパイを獲得する以上に、中国軍内の疑心暗鬼を煽る「認知戦」の意味合いが強いとの見方がある。電撃的な粛清で指揮系統に空白が生じ、「次は自分の番ではないか」という恐怖が広がっているとの観測だ。中国外交部が「国家転覆行為だ」と抗議したこと自体、当局の危機感を物語っている。

毛沢東の再来か

2月16日、米ニューヨーク・タイムズ紙は「習近平の軍粛清は絶対忠誠の追求」と題して、習近平が推進する『自己革命』を毛沢東時代の整風運動になぞらえる長文記事を掲載した。整風運動とは、1942年から中国共産党が革命根拠地の延安を中心に展開した思想教育運動で、党員の思想を正すことが目的としながらも、実質的には反対派粛清運動であった。同紙は、毛沢東が延安整風で政敵を排除した手法と重ね合わせて、習近平の軍幹部追放劇を分析している。

最近の習近平に“毛沢東の再来”を見るのはニューヨーク・タイムズ紙だけではない。中国ウォッチャーの間でも、歴史的既視感を指摘する声が広がっている。もちろん、筆者も第一報に触れたとき、半世紀前の事件が頭に浮かんだ。

今回の軍粛清はたしかに“習近平の毛沢東化”を連想させる。鍵となるのは、張又侠という人物と習近平との関係である。

『人民中国』1968年1月号(裏)
資料提供=楊海英氏
『人民中国』1968年1月号(裏)