習近平は衰えるのか、それとも暴走するのか

林彪事件は、毛沢東体制の神話に亀裂を入れた。党規約に明記された後継者が失脚し、国外逃亡の末に墜落死した事実は、中国政府の「毛沢東絶対無謬」という前提を揺るがした。国民は文革の狂気から目覚め、文革終焉への流れを決定づける転換点となった。

一方、習近平は同じ道をたどりそうもない。むしろ権力への執着は増している。習近平はプーチンとの会談で「150歳まで生きたい」と語ったと伝えられている。

毛沢東の時代と決定的に違うのは、ハイテク監視社会の存在だ。AI顔認証、SNS監視、社会信用システムは国民を縛りつけ、不満の表出を物理的に封じ込めている。

盟友を失った習近平は、誰も信じられない孤独な独裁者となった。幼なじみさえも排除した事実から、軍エリート層に恐怖が広がっているとCIAが見たのも無理はない。中国軍の体制強化を進めたことで、むしろ内側から脆さが増大しているのだ。

台湾をめぐる3つのシナリオ

張又侠失脚後、台湾をめぐって専門家の間では3つのシナリオが想定されている。

第一に、侵攻に向けた純化。ブレーキ役を排除したことで、政治的に完全に従順な指導部が完成し、台湾侵攻への政治的ハードルが下がった。

第二に、軍の機能不全。指揮系統の相次ぐ粛清により、短期的(12〜24カ月)には複雑な統合作戦能力が著しく低下する可能性がある。

楊海英『未完の中国文化大革命』(PHP新書)
楊海英『未完の中国文化大革命』(PHP新書)

第三に、誤算リスクの増大。専門的・現実的な進言をする「理性ある声」が消え、習近平がプロパガンダ的な楽観報告だけを信じることで、判断ミスや偶発的な衝突が起きるリスクが高まっている。台湾国防部は今回の一連の動きを「異常な変化」として警戒を強めている。

習近平は文化大革命を否定していない。むしろ「困難のなかで前進した10年」と再評価している。彼にとって文革の本質である「絶え間ない敵の摘発と粛清」――不断の自己革命――は、権力を維持するための現在進行形の統治手段なのだ。彼が掲げる「中国の夢」とは、文革的な大衆動員とナショナリズムの完成形にほかならない。

張又侠という最後のブレーキを失ったことで、中国は歴史的な転換点に到達した。世界は今、習近平の「毛沢東化」を注視している。

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