吉野家といえば、コの字型カウンターにおっさんが座り牛丼をかき込むイメージだが、いまや顧客の約3分の1が女性と、店が大変身している。吉野家の在り方を大きく変えたのが会長の河村泰貴氏だ。本人自ら吉野家改革をどう進めたか、綴ってもらった――。

※本稿は、河村泰貴『どうしたらバイトから社長になれたんですか?』(プレジデント社)の一部を再編集したものです

吉野家といえば「おっさんの店」という印象

僕が吉野家を経営してきた10年半で、何かしらを成し遂げることができたとすれば、「客層の拡大」だ。僕が社長を引き継いだ当時の吉野家は、女性顧客の比率は14.4%。ほぼ男性顧客ばかりというお店だった。

しかし、日本社会が直面する少子高齢化と人口減少を考えたとき、国内史上で継続的に成長を図るためには、利用シーンと客層を拡げる以外に、生き残る道はない。女性やファミリー層が安心して利用できる存在に変らなければ、将来の成長は見込めないのだ。

とはいえ、長年染み付いた「男性中心の吉野家」というイメージを変えるのは容易ではない。

今でも「吉野家は入りにくい」「行きたくない」と感じる女性は少なくないし、やり方を誤れば、長年支えてくれたロイヤルカスタマーである男性顧客にそっぽを向かれるリスクもあった。

だからこそ、僕は極めて慎重に、一歩一歩積み重ねる形でこの課題に取り組んだ。

売れなくてもいい! 「ベジ丼」発売の衝撃

2015年に発売した、具材が野菜だけの「ベジ丼」は、吉野家が健康志向を打ち出す最初の試みでもあった。発売に先立って、僕は全国の店長たちを前に「申し訳ないが、この商品は売れないと思う。けど、やる」と説明した。そしてさらにこう続けた。

11種類の温野菜を使った吉野家の新商品「ベジ丼」=2015年5月14日
写真=共同通信社
11種類の温野菜を使った吉野家の新商品「ベジ丼」=2015年5月14日

「ベジ丼そのものは売れないかもしれないけれど、『吉野家はお客様の健康を考えたメニューを開発してまいります』という挨拶代わりの商品。そう捉えてほしい」

ベジ丼のメディア発表会で記者の方から「女性をターゲットにした商品ですか?」と問われたことをよく覚えている。その際、僕はこう答えた。

「確かに女性もターゲットではありますが、メニュー一つで女性のお客様が増えるほど、マーケットは甘くないと思います」

そう、客層の拡大は総力戦である。地道な改善の積み重ねが不可欠なのだ。