フルサービスから、カフェテリアへの変換

例えば、僕がディレクションした自社のCMでは、一度もタレントさんをカウンターで食事させていない。必ずテーブル席での食事シーンとし、牛丼を召し上がるシーンでは、丼の横に必ずサラダを添えてもらうよう依頼した。もちろん、この程度のことで急に女性客やファミリー層が増えるわけではない。だが、そうした小さなことを、水滴が岩を穿つように、コツコツ、コツコツと、10年積み上げていった。

その中でも、顧客層や利用シーンの拡大に最も大きく貢献したのは、新フォーマット店舗、クッキング&コンフォート(C&C)タイプ店舗の開発だ。メディアでは「黒い吉野家」などと呼ばれた店舗である。

まず試してみようと決めたのが、サービス方式の転換。バーガーチェーンやカフェチェーンのように、キャッシャーでご注文いただき、お料理はお客様ご自身で運んでいただいてお好きな席でお召し上がりいただくというカフェテリア方式へ。「うまい、やすい、ごゆっくり」のコンセプトを、単に一商品だけではなく、店舗全体のコンセプトへと拡張する。

客席は、ゆったりと、テーブル席を多く配置しながらも、従来のお客様にも配慮して、目隠しともなるようなパーティションを設けたビッグテーブルも設置する。

はなまるうどんを再建した吉野家会長の河村氏
はなまるうどんを再建した吉野家会長の河村氏(出典=『どうしたらバイトから社長になれたんですか?』)

いつの間にか変わっていた吉野家のBGM

化粧室には清掃性の高い床材を採用し、水拭きもできるようにした。

それまでの吉野家は、低コスト化の一環で、普通の床材を化粧室にも使っていた。これが清掃性を低下させ、現場に負担をかけていた。男性用と女性用を分けるのは当然だが、ただ個室が分かれているだけではダメで、洗面も分かれていなければ意味がない。男性にとっては「トイレット」だが、女性にとっては「レストルーム」なのだから。

思えば、僕が吉野家の社長になって一番初めに変えたことも、「トイレットペーパーの材質変更」だった。何もソフトな高級なものに替えたのではない。むしろ逆だ。紙屑が飛び散りにくい、少し硬くて綺麗に切れる材質のものに替えてもらったのだ。吉野家のトイレにソフトな感触のトイレットペーパーを求めている人はそうはいないだろう。であるならば、紙屑が落ちにくい、清掃性の高さを優先したかった。

店内BGMも既存店でかけているJ-POPをやめ、僕自身が作成した「こんなイメージ」というプレイリストを協力会社さんにお渡しして、レイドバックした感じの80年代~90年代R&B中心の洋楽に替えた。後に、新商品のCMなどを流す店内放送も雰囲気を壊してしまうので止めてもらった。

こうした、細かいことを少しずつ積み上げて、「ごゆっくり」お食事していただけるような店内アトモスフィアづくりを模索していった。そして従来の吉野家とは異なる雰囲気であっても、既存のお客様にとってギリギリ許容できるライン、そんなラインを模索した。