米国では移民だけでなく市民も射殺されている
茨城県は外国人の不法就労対策として「通報報奨金制度」を新たに創設して新年度中の導入を目指している。この「密告制度」がスタートすれば、外国人に対する差別と偏見が助長され、日本はますます世界から取り残される。
茨城県で問題視されているのは農業での不法就労だ。首都圏という大消費地に近い地の利もあって、茨城県は農業産出額全国3位を誇る。一方、人手不足は深刻で、それを不法就労の外国人が補っている構図はアメリカと同じだ。2024年に入管法違反で退去強制手続等を執った外国人のうち不法就労者は全国で1万4453人いたが、都道府県別では茨城県が3452人で3年連続のトップ。大井川和彦知事は25年12月の「外国人ルール等へのルール遵守対策プロジェクトチーム」初会合で、「一部の外国人によるルール違反が県民を不安に陥れている」と趣旨を説明した。通報報奨金制度はこのプロジェクトで検討されたもので、報奨金は1件1万円を予定しているという。
外国人差別につながるという批判を受けて、知事は記者会見で「真面目にやっていただいている外国人労働者まで不安に陥れるような身も蓋もないような話には絶対になりません。ならないよう設計しています」と反論した。具体的には、通報の対象は不法就労させている事業者であり、外国人個人の情報は受け取らないとしている。
しかし、知事の認識は甘い。通報の対象が何であれ、第三者には不法就労の外国人と正規の資格で働く外国人の見分けはつかない。見分けがつかなければ、市民は正規の資格で働く外国人も疑いの眼差しで見てしまう。
正規の資格なのだから堂々としていればいいというのも間違いだ。トランプ大統領は不法移民の取り締まり強化を打ち出した。ICE(移民・関税執行局)の職員はもともと1万人だったが、25年の1年間で2万2000人に倍増。背景には、本来6カ月を要する職員の訓練をわずか7〜8週間に短縮して現場に投入したことがある。結果、権力をふるいたいだけの未熟な職員が暴走を始め、合法の移民を拘束するケースが相次いでいるのだ。極めつきは今年1月にミネソタ州ミネアポリスで起きた射殺事件である。7日には女性がICEに、24日には男性が国境警備隊に射殺されたが、ともに不法どころか移民でもないアメリカ生まれのアメリカ市民だった。密告が制度化した有名な例は中国の「文化大革命」だ。毛沢東思想に反する人を告発する制度では、家族まで密告する事例が相次いだ。
取り締まりの口実を与えると、人は簡単に暴走してしまう。アメリカの現在の有り様を見れば、茨城県も「ミニ・トランプ」だらけになり、相互監視の恐怖から地域社会が機能不全に陥ることは目に見えている。私の家内は日本に帰化したアメリカ人だが「滞在免許」の携帯を義務づけられていたころはよく警察に止められて「免許拝見」とやられたものだ。アメリカにいる日本人も同じような目に遭っている。
母国に戻って両国の産業をつなぐ
アメリカを反面教師として学ぶべきことはまだある。不法移民の取り締まり強化により、主に南部の州で建設や農業、工場などの産業が成り立たなくなってきたのだ。これらの産業の雇用主はどちらかといえばMAGA(MakeAmerica Great Again)が多く、関税政策で産業を取り戻すというトランプ大統領の主張を支持していた。しかし、保護主義で仕事が増えたとしても、不法移民の取り締まりで労働力が足りず、供給できない状況に陥っている。
地域経済への影響も大きい。全労働者のうち約8%が不法就労というカリフォルニア州は、負の影響を受ける州の一つだ。ベイエリア評議会経済研究所の報告書によると、不法就労者の賃金収入の経済効果は同州全体のGDPの約9%で、その労働力を失うと農業の場合GDPが約14%も減少するという。GDPが減れば税収も減り、行政サービスも維持できなくなるおそれがある。農業を主力産業とする茨城県が後を追うなら、困るのは真面目に働いている県民である。まさに自殺行為だ。
産業や行政サービスの維持を考えると、積極的な移民政策が必要である。1960年代にドイツはトルコから大量の移民をガストアルバイター(ゲスト労働者)として受け入れた。当初はやはり軋轢が生じた。世界中どこでもそうだが、移民はお互いを支え合うために同じ地域に住む。生活習慣や文化の違う集団が暮らせば、既存の住民にはストレスがかかる。
しかし、ガストアルバイターをいじめて追い返した結果、ゴミを収集してくれる人もいなければ、建物を建ててくれるとび職もいなくなった。多少の軋轢はあっても暮らしを維持するには移民に頼るほかないと既存住民も気づいて、徐々に許容するようになった。
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