9年半ぶり会談に潜む「中華帝国」復活の野望

4月10日、台湾の最大野党である中国国民党の鄭麗文ていれいぶん主席が、中国共産党に招かれて北京で習近平総書記と会談した。習近平総書記は、この会談で台湾の巻き取り戦略を進める腹づもりだ。

もともと中国共産党と国民党は、中国大陸で内戦をしていた犬猿の仲だった。敗れた国民党の蔣介石は台湾に中華民国政府を移転。長年いがみあってきたが、台湾の民主化で風向きが変わった。1986年に結成された民主進歩党は、台湾共和国の建設を掲げて党勢を拡大。新たに国をつくるのは、国を2つにするということ。台湾の統一を目論む中国共産党にとって、独立派の民進党こそが不倶戴天の敵になった。

一方、国民党はあくまでも自分たちが中国の正統な政府だという立場である。それが中国共産党の主張する「一つの中国」というスローガンと合致して、両党は接近するようになった。

たとえば2016年に選挙で民進党の蔡英文さいえいぶん総統が誕生すると、中国は台湾政府との公式な対話を拒否。一方、その年の秋には国民党の洪秀柱こうしゅうちゅう主席を招いて会談している。中国共産党の国民党びいきはあからさまだ。

今回の鄭麗文主席の訪中により、約9年半ぶりの国共トップ会談が実現した。会談では「一つの中国」をお互いに確認している。宥和ムードを受けて、中国政府は中台間の航空便の全面再開や台湾産農水産物の輸入など、これまで台湾にかけていた規制の一部を緩和すると発表した。これは習近平総書記が鄭麗文主席に渡したお土産だと考えればいい。台湾の有権者に向けて、「国民党を支持して親中政権が誕生したらいいことがある」とメッセージを送り、鄭麗文主席を支援したわけだ。

習近平総書記(右)と鄭麗文主席
写真=時事通信フォト
4月10日、習近平総書記(右)は、北京で国民党の鄭麗文主席が率いる同党訪問団と会談した。

中国はどうしてこれほどまでにサービスしたのか。理解するには、習近平総書記を貫く2つの行動原理を知っておいたほうがいい。一つは領土に関する野心だ。習近平総書記の夢は清朝の版図を復活させること。ロシアの極東地域も狙っているし、太平洋では九段線を主張して、フィリピンやベトナムと南シナ海の島の領有権を争っている。もちろん台湾も清朝が支配していた。

もう一つは、1980年代の最高指導者、鄧小平の否定だ。習近平の父、習仲勲は党中央委員だったが、鄧小平の陰謀で失脚させられて、16年間に及ぶ投獄・軟禁生活を余儀なくされたといわれる。習近平総書記は、父を陥れた鄧小平を許せない。鄧小平は毛沢東の計画経済を転換して改革開放路線で経済を立て直したが、その功績を認めたくない習近平総書記は、中国の歴史における鄧小平の存在を矮小化。一方で毛沢東をほめたたえ、自分が後継者であるかのように振る舞っている。

また、鄧小平は独裁を防ぐため、憲法で国家主席に「2期10年」の縛りをつけた。習近平総書記はこのルールも気に食わず憲法を改正。さらに、自分の対抗馬になりうる政治家――たとえば、李克強りこっきょう元首相をはじめとするライバルを次々にパージし、薄熙来はくきらい元重慶市中国共産党委員会書記も投獄している。終身総書記を狙っているのだろう。

清朝の版図復活と、鄧小平の否定。この2つの行動原理がよく表れていたのが香港の巻き取りだった。

香港はイギリスに割譲・租借されていたが、租借期限の97年に中国に返還された。返還交渉の過程で、鄧小平は「一国二制度」、つまり香港は中国領だが、本土とは別の体制で自治を認めることを提案。返還後50年間は一国二制度を維持することを約束している。