安倍元総理銃撃事件の背景にある「恨みの連鎖」
安倍晋三元総理を殺害した山上徹也被告の裁判員裁判で、1月21日、奈良地裁は求刑どおり無期懲役の判決を下した。被告側が控訴したため裁判はまだ続くが、この事件が明らかにした旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題について整理しておきたい。
山上被告の生い立ちは不幸の連続だった。父親は4歳のときに自殺して、その後、旧統一教会に入信した母親は家を売却してまで献金した。総額は1億円超と見られ、母は自己破産、兄は自殺してしまう。その怒りを山上被告は教団にぶつけようとしたが、コロナ禍で教会幹部の来日が実現せず、2022年7月、安倍元総理を代わりに銃撃した。この犯行に対し、奈良地裁は被告の生い立ちに不遇な面があったと認めつつ、そのことと犯行には飛躍があり、生い立ちの影響を大きく認めることはできないとした。
もちろん暴力という手段に訴えたことは非難されてしかるべきである。無期懲役が重すぎるという声もあるが、事の重大性を考えると致し方ない量刑だ。ただ、生い立ちの影響は大きくないという裁判所の評価には疑問が残る。
教団と山上被告のあいだにあったのは恨みの応酬だ。教団創設者の文鮮明氏は、日本に対する恨みを持った文化の中で青年期を過ごした。戦時中に日本に留学経験があるが、その間も抗日地下運動をしていた。戦後に旧統一教会を設立すると、その5年後には日本で布教を開始する。とはいえ、本気でキリスト教を広めようとしていたわけではない。目的は日本人から搾取すること。韓国は日本に搾取されたから、やり返してやろうというわけだ。
旧統一教会が搾取しようとしたものが2つある。一つは金銭だ。賠償金がわりに、日本で獲得した信者から献金させたのだ。信者がお金を出したくなるように、不安を煽って壺や印鑑を売った。いわゆる霊感商法である。
もう一つは女性だ。かつての韓国は男児選好の傾向があって、結婚できない男性が少なくなかった。そこで日本の女性信者を韓国の男性信者に嫁がせる集団見合いや合同結婚式を行った。教会が選んだ相手は事実上、拒否することができない強制マッチングだ。
旧統一教会は宗教団体の仮面を被りながら、日本への恨みを晴らすための巨大な集金・集婚機構として活動していた。その被害に遭った山上被告は恨みを晴らすために犯行に及んだ。まさしく恨みの連鎖である。教団が悪質だったとしても、安倍元総理は関係ないという声はあるだろう。しかし、旧統一教会と自民党とは蜜月の関係で、霊感商法や合同結婚式が社会問題化したときも静観していた。
旧統一教会は宗教を隠れ蓑にしていたが、韓国ではそれに加えて反共運動を展開して右派政権の庇護を受けていた。今、問題となっている金建希前大統領夫人の教会からのあっせん収財裁判をみても、教会が必死にその関係をつなぎ止めようとしていたことが浮き彫りになる。同じことを日本でも行おうと、日本の右翼を引き入れて1968年に国際勝共連合を設立。発起人に名を連ねたのが、自民党内に強い影響力を持っていた岸信介元総理だった。
自民党と教団がいかに密接な関係なのか、私は95年に東京都知事選に出馬したときに身をもって経験している。選挙戦が始まると、ある噂が流れた。私が旧統一教会信者だというのだ。デマのもとをたどると、発信源は自民党の石原慎太郎議員と判明。抗議に行くと、石原議員は次のような釈明をした。
自分が大田区から初めて選挙に出たとき、ポスター貼りを統一教会に手伝ってもらった。大前さんは1日でポスターを貼ったが、個人では不可能。だから朝の勉強会で「彼は統一教会じゃないか」と話した。断定はしていない。
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