店舗拡大より、触れあい
「あと3年ぐらいで社長を交代しようと思っています」
取材も終わりに差しかかる頃、古田さんは静かに口をひらいた。長男は専務としてパン事業を担い、次男は敷地内のイタリアン「クッチーナフルッタ」で腕を振るっている。
「私自身が嫌でしょうがなかったんですから。息子にも、ああしろこうしろとは言わないです。根底にある考え方だけは引き継いでほしいけど、やり方は任せます」
自身も父から、「好きなことをせい」と言われて育った。自分で「この仕事は大事だ」と思えてから、火がついた。言われてやったことは続かない。自分で決めたことだから、続けられる。
失敗も成功も見せてきた。その上で、自分で考えて動いてほしい。子どもの頃、職人も一緒に食卓を囲んでいた。あの風景が、古田さんの商売の原点にある。会社を支える息子さんも、幼い頃に職人たちと食卓を囲み、祖母がつくってくれたまかないのカレーをみんなで食べている光景が頭に残っていると話すそうだ。
「商売っていうのはね、金儲けのためだけにやるんじゃない。携帯電話やらどんどん進んで、家のなかでもひととの触れ合いがなくなってきてるでしょう。ひとの温かさや優しさを感じられるような店を作りたいんです。フルフルのパンをみんなが食べるときに、そういう風景が生まれたらいいなって。それがより良い地域づくりのお手伝いになれば。だから、触れ合いがなくなるような広げ方は、絶対にしてほしくない。息子もそれはわかってきたみたいですね」
相手を満たせば、自分も満たされる
取材の終わりに、店名の由来を聞いた。直営店を始めるとき、知り合いの設計士に店の設計を頼んだ。名前をどうしようかと相談すると、「フルフルでいいんじゃないの」と言われた。
「フルフルってなんか軽いねって思ったんですけど、古田のフルでいいって。あ、そうかと思って決めたんです」
店名を決めたあと、古田さんは自分なりに理屈をつけた。「フル=full」には「満たす」という意味がある。
「相手を満たせば自分も満たされるという気持ちでね」
「フルフル」
少し照れたように笑った。



