任せてみたら、売れた

満を持して発売した明太フランスも、売れなかった。

転機をもたらしたのは、販売チーフを務めていた女性スタッフだった。パンが好きで証券会社を辞めてフルフルに入ってきた。「1本だと女性には大きくて食べにくい。食べやすくカットしてみたらどうですか」と提案してきた。さらに、明太フランスが焼き上がるとお客さんに声をかけ、試食を配りはじめた。

「体育会系でずっとやってきた私には、食べにくいって何だろうと思いましたね」とガハハと笑う。

スタッフの言うとおりに試してみると、流れが変わった。明太フランスは、どんどん売れはじめた。

お客さんの声を聞いてカットする、試食を配り、焼き上がりを伝える。スタッフたちは、焼きたてを届けたいと、まとめて焼くのではなく小刻みに焼くようになった。1日150回。

パン工房ではたくさんの種類のパンが作られていた
筆者撮影
パン工房ではたくさんの種類のパンが作られていた

「お客さんも並ばれるしね、商売的に非効率なのはわかってますよ。でもね、社員がそうしたいって言ってるんだから。私がやめろとは言えないですよ。これは踏ん張らないかんなと」

2009年、「日本一明太フランスを売る店」とメディアに紹介された。看板商品になるにつれて直営店を増やし、卸しは次第に縮小していった。今では売り上げのほとんどが直営店によるもので、卸は約1%にすぎない。自分たちで作ったパンを、自分たちの店で売りたい。あの思いは、現実となった。

「アイデアを出してくれるスタッフがいてくれて本当に助かりました。私の転換点でしたね」
「よっぽど問題でない限り、口を出さない。何かあるときは、参考程度にヒントやアイデアを言うくらい。邪魔しない方がいいなと思ったんです。ものを作るひとの思い、売るひとの思いを。これを大事に育てていこうと思った」

作っているのは、パンじゃない

ある日、店舗で見かけた光景に目が留まった。スタッフとお客さんが笑顔で会話をしている。パンを受け取るお客さんも、パンを提供するスタッフも笑っていた。

「これいいなあ、と思ったんです」

会話が生まれる場所を作っている。「コミュニティベーカリーを目指す」と決めた。「スーパー行くのが遠いから、パンといっしょに野菜も買いたい」と声が上がれば、敷地内にマルシェを作った。国産小麦のパスタを提供できたらと、イタリアンの店も作った。

「お客さんがよろこんでくれると思ったことはね、すぐ行動しましょうって。いろいろ言わなくても、もう自主的にやってくれてる。社員一人ひとりが経営者みたいな気持ちでね。だから楽なんですよ」

古田さんは利益の5%をスタッフへの投資に使うと決めた。一流の接客やサービスを肌で感じてもらう。体験した社員は、店に戻ってその学びを生かす。

「パンを作ってるんじゃないんですよ。パンを作るひとを作ってるんです」

フルフルが1年間で世に出すパンは100種類以上。そのほとんどが、スタッフ自ら開発した商品だ。

国産小麦パン工房 フルフルのパン
筆者撮影
筆者の娘が好きな「くまごろー(真ん中)」にはチョコクリーム入り。「にゃんたろう(真ん中下)」にはキャラメルクリームが入っている。筆者は「発酵バター香るさくさくクロワッサン」が好きだ

ただし、きれいごとだけではひとはついてこない。

「お客さんに笑顔になって帰ってもらえたら一番うれしい。でも、うちのスタッフにも家族との時間がある。社員も家族なんです。家族を守るのにも、子どもが学校行くのにもお金がいるからね、収入も大事。今はお客さんが支えてくれるから、社員にそれなりに給料を渡すことができるし、休みをとってもらうことができる」

フルフルは、火曜定休。お盆も正月もきっちり休む。辞めても戻ってきてくれる社員がいるという。「それが、うれしい」と古田さんは笑った。

一時期、店舗を県内7店舗まで拡大した。しかし店舗が増えるほどパンの味にばらつきが出た。客足が離れ、福岡市内を中心に5店舗に集約した。この経験から、店舗拡大を目的にしないと決めた。