クビになるか、辞職するか、不正するか
より深刻なのは、そのプレッシャーが会計不正の温床となっていた現実だ。調査報告書には、追い詰められた現場の声が生々しく記録されている。
ある国内グループ会社のCFOは、退社を決意した際に上司へこんなメールを送っている。
「今まで自分の心と葛藤しながら体に鞭を打って何とか出社していましたが、もう会社に行くことが心も体も許さなくなってしまいました……尊敬する永守代表の前で、自分の行動に偽った発表をしようとする自分も嫌でたまりません。このままでは心がどんどん壊れていき、家庭でも笑えることができなくなりそうです」
このCFOだけが特例だったわけではない。元執行役員は委員会のヒアリングにこう証言している。
「業績目標を達成できない会社のCFOは、目標未達の責任をとらされてクビになるか、プレッシャーに耐えきれずに自ら辞めるか、不正に手を染めてそれがバレてクビになるかであり、いずれにせよニデックを去ることになる」
実際、着任から1週間で退社するCFOも現れた。転職エージェントからは「もう人材を紹介したくない」とまで言われるに至った。
決まらない後継者
毎月5日までに「124%のアイテム出し」――営業利益目標の124%を達成する施策を積み上げる作業――が義務付けられ、未達なら業績フォロー会議に毎日呼び出された。
ひどいケースでは、1日に4回、計4時間を超える会議が連日続いた。ある幹部は「10kg痩せた」と証言している。目標を逃れるために数字を作る――これが会計不正の直接的な動機だった。
永守経営のもう一つの脆さは、後継者問題の迷走である。
カルソニックカンセイ元社長の呉文精を副社長として招聘したが2年後に去り、米GE出身の吉本浩之は社長に引き上げられたものの降格を経て退社した。日産自動車ナンバー3だった関潤も社長兼COOに就任しながら、わずか2年で事実上解任され、永守は決算会見の場で関を公然と非難した。「経営の指導を受けていて横を向いてまねなかったら進歩はない」と言い放った。
外部人材だけでなく生え抜きも翻弄された。永守は2022年の会見で「後継者問題で市場に不安を与えたことは事実」「もう4回も失敗している」と認めた。しかし失敗の根本原因が自身の介入と苛烈な要求にあることへの内省は、最後まで十分に示されなかった。

