孫正義とならぶ「大ぼら三兄弟」

永守の経営者としての真骨頂は、M&A(合併・買収)戦略にあった。

1984年、米トリン社のファン部門買収を皮切りに、70件を超える企業を傘下に収めた。その手法は明快だった。

「工場がきれいになる、社員が休まずに来るだけで会社は黒字になる」

買収先には徹底したコスト削減と現場の清掃活動を導入し、赤字企業を次々と黒字化させる手腕は「永守マジック」とも称された。

精密小型モーター、とりわけハードディスク用モーターで世界シェア8割を握る。受注が決まる前から巨額投資に踏み切り、需要が爆発した瞬間に競合を置き去りにする「待ち伏せ戦法」は、永守ならではの嗅覚と胆力の産物だった。

売上高は過去25年で5倍に膨らみ、2兆円を突破した。実績を積み上げながら、永守はさらに「ほら」すれすれの目標を掲げることで組織を前へ駆り立てた。「2030年度に売上高10兆円」がその最たるものだった。

孫正義(ソフトバンクグループ)、柳井正(ファーストリテイリング)と並んで「大ぼら三兄弟」と称されたが、高い目標を掲げること自体が日本の産業界への刺激になっていたことは否定できない。

ニデック本社(写真=J o/GFDL/Wikimedia Commons

日本では受け入れられないパワハラ

だが、創業期に有効だった永守流は、組織が巨大化するにつれて深刻な副作用をもたらすようになる。「一番以外はビリ」「脱皮しない蛇は死ぬ」。強烈な成長志向の裏で、社内では強い緊張感が支配する空気が醸成されていった。

週刊ダイヤモンドが2023年に報じた内部資料によれば、人事部が中途社員向けに作成した「永守会長対応マニュアル」が存在していた。

「永守会長に『さん』付けは厳禁」「『お疲れさまです』は禁句」「会長専用エレベーターのボタンは押さないこと」など、異様なまでに細かいルールが並んでいた。マニュアルは永守自身の指示ではなく、側近たちによる「忖度の自主規制」が積み重なって生まれたものとされるが、その忖度を生み出したのは紛れもなく永守の苛烈な経営スタイルだった。

今回の第三者委員会報告書は、永守の言動が組織にいかなる圧力をかけていたかを初めて公式に記録した格好となった。

月初の土曜日に開かれる経営会議では、業績未達の幹部を大勢の前で罵倒することが常態化していた。報告書には「大勢の出席者の面前で一方的に罵倒するというのが永守氏のスタイルであった。最早、日本では受け入れられないことであり、強い憤りと反発を感じた」という元経営幹部の証言が収録されている。

退職や降格をちらつかせるメール、人格を否定する言葉、休日返上での作業指示――報告書が示した実態は、永守が長年「本当にパワハラならこんなに成長しない」と言い続けてきた自己評価と、大きくかけ離れたものだった。