減反政策は続いている
“生産数量目標”というのは、減反の補助金だけでは総量としてどれだけ生産されるか分からないので、国が全体としての生産目標を示し、それを県、市町村、生産者に配分してきたものである。建前としては、2018年から国から県・市町村を通じた生産者への目標数量の配分を取りやめたことになっている。
しかし、実際は国が毎年需要の見通しを示し、これを元に各都道府県(自治体と農協等の協議会)が過去の実績や自県のシェアなどを勘案してそれぞれの生産目標量を決定して市町村の協議会を通じて生産者まで通知している。生産者は今でも自由に生産できない実態は変わらない。
それを示す宮下一郎農水大臣(2023年5月14日当時:第2次岸田内閣)の「23年産米」に関する発言がある。
「米政策につきましては、主食用米の需要が残念ながら10万トンぐらいずつ毎年減っているということです。やはり需要に応じた生産ということが重要で、これを着実に推進することが基本だということで、近年、全国の皆様にご協力をいただきながら、推進をしているところです。
令和5年産米については、主食用米等の需給について、令和4年産と同程度の作付転換が必要との見通しを示して、麦、大豆等の輸入依存度の高い畑作物等への転換が進むように、水田機能維持する産地と畑作地化する産地のいずれに対しても、支援を行っているところです」。(23年9月14日記者会見)
国全体としてのトータルの生産量の枠と生産者への通知は依然として設定されているのである。これがないと、減反の補助金があっても、個々の生産者は価格・収益の面で有利なコメを作りすぎ、米価が下がってしまうからだ。建前としては、国が示すのは需要の見通しで国としては生産目標の配分はやめたというが、国の需要見通しを踏まえた都道府県以下生産者までの配分は建前としても続いている。国が全体のコメ生産を統制・抑制していることに変わりはない。
農水省の誤算
“合成の誤謬”という言葉がある。
個人にとっては望ましい行動でも、多くの人が同じ行動をすれば望ましくない結果が生じることを言う。
私がこれを知ったのは、大学に入って当時経済学の大御所だったサミュエルソンの教科書を読んだ時だった。皆が生活を良くしようとして消費を抑えて貯蓄に励むと、国全体では消費需要が減少し、かえってGDPが減少してしまうと彼は説明した。経済以外でも、試合をよく見ようとして全ての観客が立ち上がると、かえって見えなくなってしまうことが起きる。
大規模生産者などの団体である日本農業法人協会が、(米価維持のためには全体の需要に合わせて)「国全体の生産を抑制することは必要だが、販路を独自に確保している生産者が自由に生産できなくならないよう、生産者が自らの意思で生産や販売をすることを規制しない制度とするように求めた」と報道された。
減反の補助金は、コメと麦や大豆などの他作物との収益格差を埋めるために交付されてきた。収益の劣る他作物を作っても減反補助金がもらえれば、生産者はコメと同じ収益を上げられるはずだ、したがってコメ作りをやめるはずだと農水省は考えたのである。
しかし、生産者のコストは同じではない。
50ヘクタールを超える生産者は1ヘクタール未満の生産者の3分の1のコストでコメを生産できる。同じ価格でもコストの低い生産者の方がコメの収益は高くなる。平均的な生産者のコストや収益を考慮して各生産者共通の減反補助金の額を決めれば、コストの低い大きな生産者は減反補助金をもらって麦や大豆を作るよりもコメを作る方が収益面で有利となる。

