秋田県が「高米価政策=減反」に反旗を翻すワケ

つまり大規模な農業法人はコメをもっと作りたいというインセンティブを常に持つ。このとき、国等からの生産量についての締め付け(上述の個々の農家への生産目標数量の配分)がなければ、かれらの“需要に応じた生産”は増大する。

秋田県の水田に秋田おばこ米、神代じゃんご米の看板
秋田県の水田に秋田おばこ米、神代じゃんご米の看板(写真=Cheng-en Cheng/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

これは品質の良いコメを作っている生産者も同じである。価格の高いコシヒカリの産地である新潟県の生産者は、コメ作りの方が収益面で有利なので、後述するように農業補助金を地域には出さないなどという強力なペナルティを農水省から科されても、「減反=生産調整」に協力しようとしなかった経緯がある。他方で、コメ価格の低い隣県では、100%を超えて減反は達成されていた。

しかし、これらの生産者が生産を増やせば、国全体の“需要に応じた生産”は予定量をオーバーしてしまう(新規の販路を開拓すると言っても胃袋は一定なので全体の需要が増えるわけではない)。

この結果米価が下がるので、JA農協の基盤となっている零細な兼業生産者が離農しかねないし、自民党の農林族議員にとっては票田を失うことになる。日本農業法人協会が自分たちは自由にコメを作りたいが、米価を維持するためには生産量の総量を抑えてほしいというのは虫が良すぎる(誰かの生産を減らさなければならない)。

合成の誤謬が働くのである。

23年産米はなぜ減産しないといけなかったか

重要なことは、個々の生産者が自由に“需要に応じた生産”を行えば、国全体だけでなく都道府県レベルでも“需要に応じた生産”は達成できなくなることである。つまり日本農業法人協会のように自由に生産を増やしたい生産者と米価維持のために生産を抑制したい国や都道府県では、そもそも“需要に応じた生産”の意味が異なるのである。

現在米価は玄米60キログラムあたり3万7000円まで異常に高騰しているが、JA農協や農水省は、近年では米価を1万5000円とするよう減反を推進してきた。減反しなければ米価が下がるからだ。しかし、2021年産の米価は1万2804円に下がってしまったので、JA農協と農水省は22年産と23年産について都道府県を通じて生産者にもっと生産を減らすように指導した。減反の強化である。前述の宮下農水大臣の「需要が毎年10万トンずつ減っているので需要に応じた生産をしなければならない」、つまり減産しなければならないという趣旨の発言は、このような背景で行われたものだ。