最終章:物理AI時代、日本はどの高地を取るのか

再定義に対する具体的行動提言

ここまで見てきたように、テスラはEV企業からAI主軸企業へと自己定義を移行させつつある。そしてダン・アイヴスは、その転換をSOTPという枠組みで市場に翻訳し、「自動車PER」ではなく「将来の収益構造」で評価すべきだと主張している。これは企業評価の問題であると同時に、産業構造の問題でもある。

日本の自動車メーカーや関連産業にとって、これは単なる競争相手の動向ではない。もし物理AIが新たなOS競争へと発展するならば、従来型の製造優位だけでは不十分になる。評価軸が変われば、資本と人材の流れも変わる。したがって必要なのは、抽象的な危機感ではなく、具体的な再配置である。

第一に、日本企業は「完成車」だけではなく「制御層」に戦略資源を集中させるべきである。具体的には、車両制御アルゴリズムとAIチップを接続する精密制御ソフトウェアの標準化に主導的役割を果たすことが挙げられる。物理AIの核心は、センサー情報をいかに安定的かつ安全に制御へ落とし込むかにある。この分野は、日本が強みを持つ精密機械制御や品質保証の延長線上にある。

日本企業に求められる「具体的な再配置」

第二に、パワー半導体や高信頼センサーといった「物理層」の基盤技術で不可欠な地位を確立することが重要である。物理AIが拡大すれば、演算能力だけでなく、安定した電力制御と高精度センシングが不可欠になる。これらは単なる部品ではなく、OSが機能するための前提条件である。供給網の中核を握ることは、評価の一部を規定することにつながる。

第三に、倫理的AI設計および安全標準の策定において国際的主導権を取ることである。物理AIは言語AI以上にリスクを伴う。事故責任、保険設計、動作ログの透明性、フェイルセーフ設計など、制度設計の領域は今後の成長と不可分である。日本が安全規格や検証プロトコルの標準化を主導できれば、物理AIの「ルール層」を握ることになる。

第四に、産学連携による「物理AI人材」の体系的育成が不可欠である。単なるソフトウェアエンジニアではなく、ハード・制御・AIを横断的に理解する技術者の育成を国家レベルで進めるべきだ。これは教育政策と直結する長期戦略である。

高い場所から街を眺める3人の人物
写真=iStock.com/metamorworks
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