「手作り食品」がチェーン店にない“強み”

その井口屋で、井口さんも働くようになる。学校を卒業して建築の設備関係の会社で営業として働いていたが、3年ほどで辞めてしまったからだ。

「ああいう仕事はたいへんなんだよ。精神的にも良くない。だから、私だけでなく辞める人間は多かったよ。その会社を辞めたら、別の会社からの誘いもあったけど、あの業界で働く気はなかったから断った」

井口屋で働くようになったが、駄菓子の稼ぎでは井口さんの給料まではでない。井口さんは自分の食い扶持を稼ぐことを考えなければならなかった。

「そこで始めたのがサンドイッチよ。当時は、パンメーカーが講習会を開いてサンドイッチ作りを教えてたの。そこで習って、店に小さい調理場をつくって、サンドイッチを売るようになった」

PALのサンドイッチコーナー
撮影=プレジデントオンライン編集部
PALのサンドイッチコーナー。120円から135円の商品が多く、主食用のパンもあればフルーツサンドなども充実している

パンメーカーにしてみれば、サンドイッチづくりを教えて取扱店が増えれば、食パンの卸先になる。パンメーカーの販路開拓手段でもあったわけだ。

「サンドイッチは売れたよ。近くに大手のコンビニもあったけど、うちのほうが売れる。安いし、手づくりでおいしいからね」

3年くらいは、どんどん右肩上がりでサンドイッチの売り上げは伸びていったが、やがて頭打ちになってくる。

PALのおにぎりコーナー
撮影=プレジデントオンライン編集部
PALのおにぎりコーナー。赤飯が130円なのを除いて、あとは110円の商品ばかり。いなりは1個65円で販売している。閉店間際だったため、いくつかの商品が売り切れている

「それで、おにぎりを始めた。これが、調子よくて、サンドイッチより売れるようになった。おにぎりと並べていたら、サンドイッチも売れるしね」

売上高の順位が、おにぎり、サンドイッチになっていった。だから、ビルの名前もOが先で、Sは次なのだ。

大手の傘下に入らなかったワケ

しかし、ここで疑問がふと浮かんだ。わざわざコンビニをオープンしなくても、マンションと駐車場だけにしてもよかったのではないか。そのほうが気楽ではなかっただろうか。それを訊ねると、井口さんは真剣な表情で言った。

「子どもには親の働く背中を見せなきゃいけないの。2人の息子と娘が1人いるけど、ちゃんと親が働いている姿を見せなきゃいけないと思ってたからね」

「なぜ大手チェーンのフランチャイズ店にならないのか」という質問に答える井口さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
「なぜ大手チェーンのフランチャイズ店にならないのか」という質問に答える井口さん。ほかにも「この仕事が好きだからね」と語っていた

なるほど、である。しかし個人経営ではなく、大手チェーンのフランチャイズ店としてやる道もあったはずだ。仕入れや配送などは本部でやってくれるので、面倒がないはずだ。大手なら宣伝もやってくれるから、知名度も高くなる。

「誘いはあったよ。でもね、全部、断った。かなりなロイヤリティをもっていかれるし、だいいち休みも自由にとれない。縛られるのが嫌なのよ」