「わたしへの返済は考えなくていい」

ソニーを離れてからも出井さんとの関係は続いた。

郡山史郎『君の仕事は誰のため?90歳現役ビジネスマンが伝えたい「自分を活かす」働き方』(青春出版社)
郡山史郎『君の仕事は誰のため?90歳現役ビジネスマンが伝えたい「自分を活かす」働き方』(青春出版社)

一番恩義に感じているのは、2004年に人材紹介会社「CEAFOM」を立ち上げたときのこと。ソニーにも出資してもらえないかと共同設立者の一人が相談に出向くと「へえ、郡山さんが会社をやるの?」と笑顔になって、ソニーとしては無理だが個人でならと、その場で出資を即決してくれたという。

ソニーの子会社にいた頃から温めていた人材ビジネスのアイデアだったが、私の考えていたビジネスモデルでは成功するのが難しいことはわかっていた。しかしソニースピリットの一つでもある「人真似はしない」を実践する意義はあると思ったのだ。

ところが船出して間もない2008年に、リーマンショックが起こった。

価格の下落を示す赤い矢印とシート
写真=iStock.com/Torsten Asmus
※写真はイメージです

通常の紹介業では儲からなかったため、ベンチャー投資や外貨預金で資産運用していたのが裏目に出て、資産が一気に霧消してしまった。人員削減や事務所移転などできる限りのことはやったが効果はない。いよいよこれまでか。少しでも余裕があるうちに会社を清算しようと考えた私は、株主でもある出井さんにその旨を伝えに行った。

黙って話を聞いていた出井さんが最初に言ったのは、

「やめるなんて、ダメです」

のひと言だった。「私への返済は考えなくていい。最後の1円がなくなるまで会社を続けてください」と言って、それ以上話を聞いてくれなかった。

こうなったら自力で何とかするしかない。古い知り合いに助力を頼むなど、考えられるあらゆる方策を尽くして立て直しを図った結果、どうにか這い上がる道筋を見つけることができ、今日まで会社を続けることができた。

あのときの出井さんの一喝がなかったら、いまの私はないに違いない。

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