※本稿は、上岡正明『人生が劇的に変わる 「1分」の使い方』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
ブッダの思想「今この瞬間に心を集中させる」
私たちが人生でいちばんムダにしている時間――。それは現在ではなく、未来や過去へ思考がさまよっている時間です。
未来にとらわれれば、どうなるかわからないといった不安が生まれます。過去に縛られれば、あのときああしていればという後悔が生まれます。不安と後悔は、私たちの貴重な時間とエネルギーを静かに、しかし確実に食いつぶしていきます。
そんな私たちに光を投げかけてくれるのが、「前後際断」という言葉です。これは禅の言葉で、私の座右の銘のひとつでもあります。
この言葉は、江戸時代の禅僧・沢庵宗彭が残したもので、「過去と未来を断ち切り、今この瞬間に心を集中させよ」という意味があります。武芸の達人でもあった沢庵は、『不動智神妙録』の中で、剣の極意を説く際にもこの思想を語っています。
「斬るという瞬間に心が過去に戻れば手が鈍り、未来を恐れれば刃が迷う」そして、続けて説くのが、「今この一太刀に心を置く」つまり、「今ここ」に心を据えるということです。
不安と孤独に苦しむ夏目漱石を救った
この考え方は、近代文学の世界にも受け継がれました。日本を代表する文豪・夏目漱石は、ロンドン滞在中に執筆した随筆『倫敦消息』の中でこう記しています。
「前後を切断せよ。みだりに過去に執着するなかれ。いたずらに将来に未来を属するなかれ。満身の力をこめて現在に働け」
異国の地で不安と孤独に苦しんでいた漱石が救いを見出したのが、この「前後際断」の思想だったと言われています。とくに注目したいのは、「満身の力をこめて現在に働け」という一節です。これはまさに、今この瞬間、目の前の1分に集中せよ、というメッセージとも共鳴します。
さらに大事な話に続きます。脳科学の観点から見ても、人間の幸福とパフォーマンスは、「今この瞬間」に意識があるときに最も高まることが証明されているのです。

