開発チームに情熱を思い出させた問いかけ

そこで私は、「みなさんは、なぜカーナビを作るのですか?」「これまで、何を動機に開発してきたのですか?」と、一人ひとりの衝動と、チームのこれまでのルーツや、大切にしている「こだわり」を確認するための問いかけを、投げかけてみたのです。仕事の意義そのものを否定しているようにも捉えられかねない問いかけですから、この問いを投げかけることは、勇気が要りました。

案の定、クライアントは、少しムッとした表情を見せ、「いやね、安斎さん。私たちもカーナビを作りたいから作っているわけではありませんよ」と、抗弁を始めました。

「仮に自動運転社会が来ても、自動車で『移動する時間』はなくなりません。私たちは、カーナビが作りたいわけじゃない。『快適な移動の時間』を提供したいんです!」

その言葉はこれまでの言葉よりも力強く、これまで築き上げてきた「誇り」のようなものを感じました。内に眠っていた「衝動」と、自分たちが熱量を感じている「本当の目的」が、チームにとっての真の「こだわり」として、言葉になった瞬間です。言葉を発した担当者自身、そして同席していたチームメンバー一人ひとりの表情が、ガラリと変わるのを感じました。全員が気づいたのでしょう。「私たちが考えたかったのは、『AIを活用したカーナビ』ではなく、『未来の移動の時間』だったのだ!」と。

たったひとつの問いかけで結果が変わる

「なぜカーナビを作るのですか?」という素朴な問いかけは、今一度、チームが事業に向き合うきっかけを生み出しました。このように、たったひとつの問いかけが、枯渇していた衝動に再び火を点け、形骸化した目的を意味のあるものへとアップデートする契機にもなりうるのです。

安斎勇樹『新 問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
安斎勇樹『新 問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

これによって「AIを活用したカーナビを作らなければならない」という「とらわれ」も揺さぶられ、結果としてこのチームは、私が会議をファシリテートするまでもなく「未来の移動の時間」について、活発なディスカッションを始めました。それまではどこか正解を探るような空気があったのが一変し、それぞれが衝動のままに実験的なアイデアを提案する冒険型のチームへと、問いかけによって変化していったのです。

チームのポテンシャルが抑制された状態とは、言い換えればチームの可能性に光が当たらなくなってしまっている状態です。問いかけとは、チームの変化の可能性、そしてメンバー一人ひとりの隠れた魅力や才能に光を当て直す「スポットライト」のようなものなのです。

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