気づきやアイデアが次々と出てきた

すると、どうでしょう。場の空気は一転して「そういえば、あのとき……」と、具体的なエピソードが次々に飛び出したのです。さきほど「ヒアリングです」と覇気のない表情で答えていたあるメンバーは、「ヒアリングで、なかなか肝心の情報が聞き出せないときに、『営業担当者ではなく、友人として聞きたいんですけど……』と枕詞をつけると、教えてもらえることがあるんですよ!」などと、嬉々とした表情で、これまでの個人プレイによって見つけた「こだわり」を、誇らしげに披露してくれました。

その後も工夫された「問いかけ」を重ねたことによって、これまで心の内に秘めていた気づきやアイデアが場を飛び交い、無事に「初めての話し合いの場」は、大盛況のうちに終わりました。見学していたマネジメント層は「普段そんなことを考えて仕事をしていたのか!」と、一人ひとりが隠し持っていた「こだわり」に驚かされていました。

何より、参加した多くのメンバーが「こういうことを話す機会って、これまでなかったですね」「普段からもっと考えていることを共有する時間をつくろうか」と自ら発案してくれ、アイデア交換のミーティングを定期開催することが決まったのです。

工夫された「問いかけ」の力によって、一人ひとりの「こだわり」が発露し、お互いの個性に耳を傾け合う新たな関係性が編み直されたのです。

オフィスで働く若いビジネスパーソン
写真=iStock.com/maroke
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なかなか進まない企画MTGの突破口を作る

ある自動車の周辺機器メーカーB社の開発チームの事例をご紹介します。

B社は「カーナビ(カーナビゲーション)」を主力製品として市場にポジションを確立していましたが、昨今のAI(人工知能)技術の発展と普及の影響について、不安を感じていました。

AIによって「自動運転社会」が到来すれば、ドライバーにとっては運転機会そのものが減っていくことが予想されます。もしかすると、「カーナビ」の市場そのものが消滅してしまうかもしれません。

これに対してトップから「AIを活用した未来のカーナビ」を考えよと指令が下され、アイデアを考える企画ミーティングを繰り返していました。けれども、なかなかピンとくるアイデアが生まれず、私のもとへと相談があったのです。

相談に訪れたクライアントチームのみなさんは、私の目から見て、完全に「衝動の枯渇」に陥っていました。誰もが、「AIを活用した未来のカーナビ」を作ることに、モチベーションを感じていないように見えたのです。一人ひとりの衝動が失われたままでは、冒険型に切り替えられず、現場主導のイノベーションにはつながりません。結果として、トップの命令に従って「カーナビを存命させる」という手段が「とらわれ」となっており、「認識の固定化」と「目的の形骸化」が併発しているようでした。