日本企業の特徴とはどのようなものか。東京大学大学院の出口剛司教授は「職務内容より会社のメンバー(社員)になることを重視する『メンバーシップ型』の雇用システムが、かつては高い生産性を生み出していた。ここから逆に、現在の日本社会が抱える問題が見えてくる」という――。
※本稿は、出口剛司『大学4年間の社会学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
なぜマジメな人にばかり仕事が集中するのか
海外で理解されにくい現象が過労死です。私たちはその原因を日本人の過度の勤勉さや上司からのパワハラに求めます。これらの答えはけっして間違いではありませんが、社会学としては自らの流儀に従い、個人を超えた組織の形態に過労死の要因を求めたいところです。
日本的組織では、一人ひとりが担う仕事の内容が明確に決まっているわけではなく、組織全体として仕事やプロジェクトに取り組みます。組織の人員に余裕がある場合には問題ないのですが、作業量が増えて極端に人手不足になったり人が突然辞めたりすると、メンバーの負担が著しく大きくなります。個人が担う仕事に客観的な上限がないために、無際限に負担が増えていく可能性があるのです。
こうした構造的要因を背景に、責任感のある人ほど、仕事が集中します。上司と面談を繰り返して仕事の内容と報酬を客観的に決めるジョブ型とは異なります。
日本社会では、会社で働く限り組織のメンバーであり、会社を辞めると「仕事を辞める」だけではなく「コミュニティを失う」ことも意味する場合があります。日本はしばしば企業社会と言われます。企業社会とは、社会が企業中心に組織され、企業の外に社会=居場所が存在しないような社会を意味します。その結果、仕事を辞めると、社会(居場所)から脱落するという孤立感や危機感を持ってしまうと言えるでしょう。


