「共通テスト化」で企業の採用条件に

――でも、大学自体は、なかなか変わろうとはしません。

【黒川】大学が変わらないなら、企業側が変わればいいのです。いまや、企業活動のグローバル化に応じて英語力が不可欠となっていますが、多くの企業が自ら英語の試験などやらず、TOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)で一定の高得点をとってくることを要求するようになりました。ICTに関しても同様にすればいい。

図表3にある情報処理技術者試験は、経済産業省の外郭団体である情報処理推進機構(IPA)が実施している国家試験ですが、これをもっと実戦的に強化し、採用の目安にすればいいでしょう。そういう目安があれば、仕事が変わるときも生かせるはずです。これは、ICTの分野に限りません。例えば、化学の分野でも同様に、業界団体などで化学の基本的知識を計る共通テストを設け、採用条件に加えればいいのです。そうなれば、大学や大学院のカリキュラムも、変えざるを得なくなります。学生たちは、大学にとってはお客さまと同じ。「顧客第一」は、企業だけに求められていることではありません。


提供:(独)理化学研究所
――「ものづくり」へのICTの活用で、結びに伝えておきたいことを、お話し下さい。

【黒川】ICTは、あくまで問題解決のための手段であり、機器類を配備すればすむわけではありません。そのことを、企業幹部たちはもう1度、再確認してほしい。若い人たちには、社会に出る前に、大学や大学院で「ICTを手段として使う」という認識を持ってきてほしい。これは、工学部の学生だけでなく、文科系か理科系かに関係なく、必要です。例えば、看護や介護の世界でも役に立ちます。問題にぶち当たったときに、ICTを使えば前に進めるかもしれないということを、頭に入れてきてほしいのです。

いちばん重要なことは、人間というのはアナログな存在で、デジタルなどではないという点です。例えば、携帯電話自体はデジタル技術で動くけど、指で操作し、目や耳で確認するなど、やっていることは全部アナログなのです。だからこそ、「ものづくり」では、そのアナログの世界をきちんと理解していないといけません。携帯電話のボタンをもっと大きくするとか、声を大きくするということは、そういう世界から出てきた発想で、それを解決する際にICTの技術を使うだけです。パソコンでも家電製品でも、人間と機械の接点はアナログで、「何がほしい」「何は要らない」という選択が大事です。言い換えれば、日本の「ものづくり」にICTを生かしていくにも、社会科系、人間系の視点や発想が不可欠ということです。

富士通相談役 黒川博昭
1943年、埼玉県生まれ。67年東京大学法学部卒業、同年富士通信機製造(現富士通)入社。90年システム本部企画部長、99年ソフト・サービス事業推進本部長、取締役、2001年常務、03年4月副社長、同年6月社長。08年より現職。同年より富士電機社外取締役も務める。
(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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