大小問わず、危機に瀕している国内電気機器メーカー。裏腹な「ものづくり礼賛」の風潮にどこか違和感を覚える今、北関東の片隅にある社員300人の“凄い町工場”から何を学べるか?

北関東で生き残り懸ける“弱小大名”


かぐや(JAXA・池下章裕/PANA=写真)

12年1月、第146回直木賞の最終選考に残った伊東潤著『城を噛ませた男』(光文社刊)は、受賞こそ逃したものの、戦国時代をしぶとく生きのびる男たちを扱った密度の高い短編集である。

同書に収められたある一篇の主人公は、上杉・北条ら大国の狭間を全方位土下座外交でしのぐ北関東の弱小大名の家老。頭を下げ続け、知恵の限りを尽くして凡庸な主君を護る初老の男の生き様を、同じ北関東に本社を置く通信・観測機器の明星電気(群馬県伊勢崎市)の上澤信彦相談役(69歳)は、「弱者が知恵を出すためのヒントがここに書いてある」と、ことのほか気に入っている様子だ。


「はやぶさ」に搭載された蛍光X線分光器は、小惑星「イトカワ」表面物質の主要元素の特定に貢献した。(JAXA・池下章裕/PANA=写真)

東証二部上場の明星電気は社員約300人、前3月期の売上高が約90億円という中小企業。戦国さながらの変動続きの昨今、生き残りを懸ける弱小大名の悲哀を12年6月まで社長を務めたご自身の境遇と重ね合わせるのは、ごくごく自然のことだろう。上澤氏が社長職に就いた06年6月の時点で、同社は約110億円という巨額の累積損失を抱え、文字通り瀕死の状態だったのだ。

ところが、上澤体制の6年間でその累損は一掃され、前3月期は実に21期ぶりの復配を果たした。と同時に、総合重機大手・IHIのTOBを受け容れた身の処し方は、はた目には大国の傘下に身を寄せるしたたかな小国さながらだ。