熊本の老舗醤油メーカー・フンドーダイの「透明醤油」は、世界34カ国で販売されるヒット商品となった。“醤油は黒い”が当たり前。その常識を覆したのは、醤油を知らない“ヨソ者”社長だった。156年続く老舗を立て直した山村脩社長に、フリーライターのサオリス・ユーフラテスさんが取材した――。
熊本の醤油メーカー「フンドーダイ」の山村脩社長
筆者撮影
熊本の醤油メーカー「フンドーダイ」の山村脩社長

醤油を何も知らない「素人」社長

2019年2月に発売され、6年で150万本を売り上げた透明醤油。2025年には、醤油をシート状にしたリーフ醤油、ムース状にしたフォーム醤油と、「醤油は黒い液体」という常識を覆す商品を次々に世に送り出している。

156年の歴史を持つ熊本の醤油メーカー「フンドーダイ」はなぜ、革新的な商品を生み出し続けられるのか。本社工場を訪ね、社員に話を聞くなかで、この変革の裏にひとりの経営者の存在があることが分かった。

山村脩社長(56)。野村証券と金型ベンチャーを経て、2018年にフンドーダイの社長に就任した。醤油について何も知らない「素人」だった。

1869年から醤油づくりを続けてきたフンドーダイは、2014年以降は社長2人が2年ごとに交代。縮小傾向が続く市場で苦戦を強いられていた。そこにやってきた山村社長は「3年で黒字化、本業の醤油で立て直し、雇用を守る」というミッションを自らに課した。

なぜ素人社長が、わずか1年で透明醤油という革新を生み出し、その後も変化球を投げ続けられるのか。山村社長に話を聞いた。

透明醤油。社長のむちゃぶりで就任1年後に完成した
筆者撮影
透明醤油。社長のむちゃぶりで就任1年後に完成した

「技術的にできるなら、やってみる価値がある」

透明醤油を即決した理由を尋ねると、こう返ってきた。

「面白いじゃないですか。技術的にできるなら、やってみる価値がある」

純粋に技術オリエンテッドで決めた。

「醤油とはこうあるべきだ、という固定観念がなかったんです。業界の人なら『醤油は黒いもの』という前提から離れられない。でも私は素人だから、『うちの技術で何ができるか』だけを考えた。だから透明な醤油も『面白い』と思えた。業界のことがわかってきた今なら、作らなかったかもしれません(笑)」

経歴は異色だ。野村証券で10年、金型ベンチャーのインクスで10年。醤油とは無縁の世界を歩んできた。

「いろんな会社を見て、いろんな経験をさせてもらいました。証券時代はIPOや上場支援、インクスでは100億円のファンド設立から工場管理まで。何事もトライしてみないとはじまらない」

異業種を渡り歩いた経験が、既成概念にとらわれない発想を可能にした。