エンターテイナー ボブ・サップ

1974年、アメリカ合衆国コロラド州生まれ。2002年のPRIDEで日本デビュー。サービス精神旺盛で力強いパフォーマンスと、そのワイルドな風貌に反して溢れるインテリジェンスで、一躍お茶の間に「ビースト旋風」が吹き荒れる。昨年は18カ国で試合をしたりと現在も現役格闘家として活動中。また、そのインテリジェンスが評価され、世界各国のテレビや映画にも出演。ハリウッド進出も果たす。日本での格闘技団体や選手との確執を暴露した著書『野獣の怒り』が発売中。


 

若い頃のオレなら、朝食は毎朝12個の卵、1パウンドのベーコン、山盛りのポテトフライ、それに1ガロンのオレンジジュースを平らげるのがお決まりのメニューだった。ファンタも大好きだ。でも年々食べる量も好みもだいぶ変わってきた。脂身よりも赤身が好きになったし、焼き肉ならタン塩に鶏ナンコツが好きだ。すき焼きとしゃぶしゃぶだったら断然すき焼き派。卵をたっぷりつけて食べるのが最高なんだ。ハンバーガーだって油がたっぷりついたパンは残して、中の肉しか食べないようにしてる。こう見えても健康には気を使っているんだぜ。

オレも今年で39歳。ファイターとしてはもう年だ。ケガだって怖いし、本来ならもう引退するべき時期にきているんだ。「試合に勝って有名になる。負けたら忘れられていく」、それがファイターの常識だ。しかし、オレは2年間で20回負け続けている。ハッキリ言って成績は悪い。負けると怒るファンもいる。ネット上で批判もある。けれども、チケットは売り切れるから世界中でオレへのオファーが絶えない。

オレはファイターとしては特殊な存在になっているんだ。去年ロシアでの試合の契約オファーがきたときのことなんだけど、向こうは「どうしても勝ってくれ」って言ってきた。オレは「絶対に勝つというのは保証できないし、無理にこの試合の契約をしてもらわなくて構わない」ということを代理人を通して伝えたんだが、向こうはオレがお金のことで渋っていると勘違いしたんだろう。さらに契約金を上げてオファーしてきたんだ。生きているとこんなラッキーなこともあるんだぜ。

日本でも絶大な人気のあったゲーリー・グッドリッジは、K-1の試合によって脳にダメージを受け、認知症になってしまった。同じように悲運な目に遭ったファイターはたくさんいる。オレは少し前からそういった傷ついたファイターの援助をしている。だからたくさん金を稼ぐ必要があるんだ。それが自分を奮い立たせてくれる原動力なんだ。たくさん試合をして、負けてもまた次の国に行って試合をする。当然オレは儲かるけれど、オレは独身だし子供もいない。エンターテインメント性のある試合をできるファイターは世界を見渡しても限られてくるし、勝ち負け関係なく、今でもファンを楽しませられるのは案外オレだけじゃないのかと思うようになった。つまりこうやって金を稼げるのもオレだけ。だったら傷ついたファイターを助けることができるのもオレしかいない、きっとこれが自分の使命だと気づいたのが、今も現役のファイターを続けている理由なんだ。でもこの前「ボクシングをやらないか」というガチのオファーがきて凹んだよ。だからオレは年なんだって。