急な残業や同僚のフォロー、家事の分担……日々の生活では「言いにくい」ことがたびたび発生する。自分にぴったりな「言いやすい表現」が見つかるコミュニケーション手法「アサーション」を紹介しよう。

「ランチに行かない?」もし断られたらどうするか

言いにくいことを相手に言えるようになるには、まずは伝えたい気持ちと内容を自覚し、「アサーション」でコミュニケーションを心がけることが大切です。

アサーションを一言で説明すると、「自他尊重のコミュニケーション」です。自分の意思も大切にするし、相手の意思も大切にするということ。コミュニケーションの場においてはお互いに立場が違い影響力も異なるので、公平ではない関係性が生じてしまいますが、それでもそれぞれが大切にされるべき基本的人権に立ち戻るのがアサーションの考え方です。

実際の場面に即すると、アサーションは次の2つから成り立ちます。1つ目は、自分の考えや気持ちを正直に伝えてみようとすること。2つ目は、伝えたら相手の反応を受け止めようとすることです。

例えば、部下とランチをしながら話をしたいと考える上司がいたとします。上司は率直に「ランチに行かないかい?」と誘う。ところが部下から「今日は予定があって難しいです」と断られたら、「そうなんだね、ありがとう。また今度ね」と返答する。いずれのやりとりもアサーションになっています。相手から思った通りの反応が返ってこなくても、相手の気持ちを受け取りきちんと対応すること。相手のそれもアサーションに含まれています。

例に出した部下は、きちんと断れていましたが、日本人は自分の気持ちよりも相手を優先する他者優先の表現になる人が多いでしょう。かつては主張を控えることが美徳とされたうえ、今に至っても相手の気持ちを察する文化が根強いためです。どうしても受け身がちで、結果的に「ノンアサーティブ」な非主張型のコミュニケーションになってしまいます。

さらに昨今の職場ではパワハラやセクハラを恐れて、「仕事以外の話をするとリスクになる」という考えに縛られてしまう傾向が見られます。プライベートに踏み込んではいけないという意識が強すぎると、これもまた非主張型のコミュニケーションを補強することにつながります。

「持ちつ持たれつ」がやっぱり大事

こうした状況が重なると、職場の誰かが介護や育児などを理由に仕事を休む必要が生じたとき、困ったことになります。アサーティブなコミュニケーションが育っていないために、仕事を休む側は負い目を感じるでしょうし、業務を引き受ける側の人たちはそのような状況を予想できていません。後になって「そういう事情があったのか」「事前に言ってくれていたら理解したのに」という反応が生じてしまいます。リモートワークやチャットツール中心の働き方が増え、お互いに知っていることが少なくなってきているので、いきなり問題が表面化するのです。

だからこそ、日ごろからアサーティブな表現を通して人間関係を築けているかがポイントになります。あの人は「いつも助けてくれているな」、あの人は「いつも頑張ってくれているな」。あなたの職場にはそんな人がいませんか?

その人に対し、あなたも時に手助けをしてきたはずです。

アナログの時代には、「持ちつ持たれつの関係」が職場にたくさんありました。こうした関係があると、「あの人と一緒に仕事をしたい」という気持ちも生まれてきます。それこそが臨機応変な対応にもつながってきます。アサーションは人間関係の鍵なのです。

(構成=富岡悠希 写真=iStock.com/NanoStockk)