「先延ばし」の原因を理解し、効果的な対処を行う
「先延ばし撃退」という具体性の高いテーマで、タイプ別のマネジメントを考えていきます。「先延ばし」とは何かというと、「部下に仕事を任せたけれど、なかなか手をつけてくれない」というシチュエーションのことです。
自分自身が「先延ばし」の経験がないリーダーにとっては、「そんなの、ただのサボりだろう」「一喝すべきだ」と思うかもしれません。しかし、任された仕事に対して気が進まない状態というのは、それぞれのタイプによるものなのです。
「普段はバリバリ仕事をするのに、なんでこの仕事にはこんなに困っているのだろう?」「ほかのメンバーと比べて仕事の取り掛かりが遅い部下に、何か有効なアプローチはないかな?」。そんなとき、リーダーとして部下にどのようにアプローチして解決に導けるのかを考えていきましょう。今回は、「うさアリ」「うさギリス」の先延ばし撃退法を、次回では「かめアリ」「かめギリス」について触れていきます。
「うさアリ」の先延ばし撃退法
理由① 気分のムラはなく基本的に前倒しで行動するが、目的・ゴールが不明確で漠然としているときは動けない
つねに目の前の仕事をバリバリこなす「うさアリ」タイプにとって、仕事の先延ばしは無縁に思えます。ですが、目的や目標、手段、ゴールが曖昧な案件には途端に手が止まってしまいます。
例えば、こんな課題を出したら行動停止です。
「急ぎでなくていいので、君の受け持っているA社さんについて、自由なフォーマットで半期の業務内容がわかる資料をつくってほしい」
キリギリス系のタイプであれば、「じゃあ、こんな感じでいいか」と自分に考えを任されたと受け止められますが、アリ系タイプにとっては「それって、何が正解なの?」という疑問にとらわれてしまい、先に進むことができません。期待に外れることを恐れますし、無駄な失敗をしたくないのです。
「いつまでに? ワードですか? パワポですか? 重点はどこですか? 目的は? ボリュームは?」と質問攻めにしてくれるならまだいいのですが、そのままフォローせずに放置してしまうと、あらゆる正解パターンを頭にめぐらせてショートしてしまい、先延ばしの原因になります。
それよりは、明快に「A社の部長が半期の振り返りをするための資料を求めている。C社向けの報告資料があるから、そのフォーマットを参考にして、ワードで5枚程度に報告書としてまとめてほしい。できれば金曜日の15時までに」と必要事項を伝えたほうが、スムーズに業務に取り掛かれます。
「自分で考えさせる」ことは大事ですが、「うさアリ」に先延ばしが発生している場合は、指示の不明瞭さが原因である可能性を踏まえてフォローアップすることが大切です。
理由② やるべきことを積極的にこなす反面、自己啓発やスキル開発などは後回しにする
仕事に対しては「やらないといけない!」という危機感からすぐに手をつけますが、「やらないといけないのか……?」と疑問を感じてしまうと、いっこうに仕事を進めてくれません。その最たる例が、研修などの長期的な成長を見越したアクションです。
例えば、「3カ月後にはじまる業務のために必要な資格をとらないといけない」など、研修を受けて勉強する理由や目的が明確で、短期間のうちに必要なら、「うさアリ」はすぐに学びに取り掛かるでしょう。でも、「将来のために」という長期、超長期の目的だと、「いま、目の前にあるタスク」ではないのでアクションを起こしません。それよりも、いまやるべき仕事を優先させてしまいます。
とにかく「仕事をしたがる」ので、研修の必要性をしっかり説明し、勉強時間をルーティンとしてスケジュールのなかに組み込んでしまいましょう。「いつまでに」「どれだけのことを学ぶか」を短期目標でマイルストーンを設定し、マネジメントしていく必要があります。
理由③ 忙し過ぎる
「うさアリ」は、アリ系タイプなので計画性を好むのですが、それ以上に「いますぐやる」という意識が強い傾向にあります。重要度の高い仕事なのに、納期の短い順に進めようとするので、任せたほうはやきもきしてしまいます。
この解決のためには、そもそも仕事を請け負い過ぎることを解決していく必要があります。どんどん仕事をこなしてくれるので、周囲も「うさアリ」に頼り過ぎるのです。定期的にミーティングを行い、「あなたがやる必要のない(ほかの人に振れる)仕事」「無駄な手間の削除」について話し合い、時間の確保を図りましょう。
また、「17時以降の依頼は翌日に回す」などルールを設けることで、際限なく働かないようセーブする仕組みをつくるといいでしょう。
「うさギリス」の先延ばし撃退法
理由① ワクワクしない仕事やタスクは、ギリギリにならないとスイッチが入らない
「うさギリス」のモチベーションの源泉は「ワクワクすること」なので、「ワクワクしない仕事」は先延ばしにする傾向にあります。締め切りが近づいてくると、ワクワクはしないものの「危機感」が湧き上がってくるので、それをモチベーションにしてスタートを切るのです。
そうさせず、スムーズに仕事に取り掛かってもらうには、以下の対処が挙げられます。
2:中間目標を定めてスモールステップを刻む
3:やり方を自分で決めさせる
まず、1分でもいいから、その仕事をはじめてもらうのです。面倒くさがっているだけなので、取り掛かってみると仕事の全体像がわかり、興が乗ることもありますし、中途半端な状態が気にかかって一気に取り組むこともあります。あとは、コミュニケーションで気分を盛り上げて、どんどん進めてもらいましょう。
納期が長めの場合には、いくつか中間目標を定めておくこともポイントです。毎週末にチェックのタイミングを設けておけば、危機感によって毎週末に帳尻を合わせて進めてくれます。
また、案件自体は「つまらない」と思っていても、「そのつまらない案件を、どうやってこなすかは任せる」ことで、モチベーションを高めることはできます。「うさギリス」は、「人にやらされること」にモチベーションが下がり、「自分で決めたこと」にはモチベーションが上がる性格です。進め方や方法、締め切りについても自分でプランニングしてもらいましょう。
理由② 義務的な仕事、ルーティンワーク、儀礼的な資料はやる気が起きない
「うさギリス」に対するマネジメントで難しいのが、事務的な提出物やルーティンワークをやってもらうことです。交通費精算にはじまり、稟議書作成、調査票作成、業務報告書作成、申請書作成、請求書作成などはワクワクしないので、とにかく手をつけてくれません。せっかく仕事ができるのに、そのような部分を先延ばしにして会社での評価を落としがちです。
交通費精算などなら、自分が損するだけだからいいとしても、報告書や申請書がないと後工程のスタッフに迷惑をかけるような業務では、かなりの厄介者になりかねません。事務的な作業でワクワクしてもらうのは難しいので、別のモチベーションをつくることが対策となります。
ひとつは、「すぐやってもらう」こと。ほかのメンバーには「今週中に出してくれればいいよ」と言っていることも、「うさギリス」には、「今日中に出してね。遅くとも明日の朝までには。すぐやってね!」と言うほうが、危機感が高まるので効果的です。「いや、いま手が一杯で……」と言われるなら、「それならいつ出せる?」と聞いて、自分でリミットを決めてもらうと比較的守ってくれます。
また、申請書や報告書を書く時間をスケジュールに組み込んでしまいましょう。17時〜17時半は「溜めている書類に対応する時間」として枠組みをつくり、ほかのことをさせないようにするのもいいと思います。
効果的なのは、「経費申請が遅いと経理の人が問題視する」など、痛みや恐怖があるとスムーズに対応してくれます。ただし、そのような条件をいつもつくり出すことは難しいので、定められた提出物については、叱るなどの「痛み」でコントロールすることも時には必要です。ただし、ハラスメントには十分注意してください。
「うさアリ」「うさギリス」の先延ばし撃退法 まとめ
以下に、「うさアリ」と「うさギリス」の先延ばし撃退法をポイント整理しました。
●やり方、場所、手順まで明確にしておく
●大切なことはスケジュールに対応時間を組み込んで優先させる
●仕事を整理し、無駄を省いて時間の余裕をつくる
●ベビーステップで1分だけでも取り掛らせる
●中間目標を定めてスモールステップを刻む
●やり方を自分で決めさせる
●事務作業はすぐ対応させる
「先延ばし」と聞こえのいい呼び方をしていますが、つまるところ、サボりであったり、面倒くさがっていたりするわけです。そこはモチベーションアップで解決できることはそうしつつ、ハラスメントにならない程度に強制力も使いながら対応していくことが求められます。
次回は「かめアリ」「かめギリス」の先延ばし撃退法について解説していきます。
そうした個々のメンバーが「求めていること」に1on1マネジメントで応え、みんながモチベーション高く働ける環境をつくることが、「モチベーション3.0」の実現につながるのです。




