自分の「得意」を他人に押しつけていないか
「申し訳ないが、なんとか1週間で形にしてほしい」という上司からの緊急の依頼。通常2週間はほしい仕事ですが、チーム全体で頑張ればできない話ではなさそうです。何より、緊急の仕事を任されるのは、頼られている証拠でもある。自分としては期待に応えたい……。
いつも明るい部下のA君は、「キツいですね〜! まあ、でも一気にやっちゃえばいけますね!」と前向きです。A君は少しルーズなところはあるものの、仕事のスピードも早くて頼れる部下なのです。しかし、ほかの部下たちからは「無計画に仕事を受けられては困ります。ミスがあったらどうするんですか」「別件の仕事もあるし、無理ですよ……」とクレームがちらほら。
思わず、「厳しいことは確かだが、わたしは全然無理だとは思えない! A君も前向きじゃないか。なのに、なんで君たちはすぐ文句を言うんだ!」と怒ってしまい、チームの雰囲気は険悪に。
似たような経験は、みなさんにもあるのではないでしょうか? 怒ってしまうことはなくても、「なんでそんなことで文句を言うの?」「どうしてこれができないの?」と、部下に対して不満を覚えたことはあるはずです。「できるはずなのにやらないだけ。怠慢なのだ」と結論づけてしまったこともあるかもしれません。
でも、その考え方は少々危険です。例えば、あなたが上司に緊急案件の依頼をされても拒否反応を示さなかったのは、真面目さや責任感だけでなく、「突発的な仕事にも柔軟に対応できるタイプ」であり、人に頼まれても「まあ、なんとかなる」と楽観的に考える「うさギリス」タイプだからかもしれません。
まだ、どのタイプがどんな性格だったか、わからないと思いますので、以下に改めてマトリックス図を掲載しておきます。このように、人それぞれ性格タイプが異なるのです。
もし、あなたが「うさアリ」タイプだったら「やるべきこと」を明確にし、リスクを把握したうえで、すぐに取りかかろうとするはずです。よって、上司から依頼を受けた時点で「わかりました。すぐチームのリソースを確認して作業スケジュールを組み直します。要件や許容範囲などを詳しく教えていただけますか?」と細かく確認し、部下たちには「どうすれば対応が可能か」を細かく説明したでしょう。
あるいは、より慎重でチーム全体のリソースが見えている「かめアリ」タイプだったら「……ちょっと危ないですね。別のチームにあたることも検討できますか?」とリスク回避を優先したかもしれません。
そこで今回は、「リーダーとしてのあなたのタイプ」を自覚することからはじめていきましょう。
「うさアリ」タイプのリーダーの適性と課題
●リーダーとしての適性
「うさアリ」タイプの人は、以下のうさぎの行動傾向とアリの動機傾向を持っています。
「うさアリ」タイプのリーダーの強みは、チーム全体のパフォーマンスを高めるマネジメント力にあります。うさぎのスピード感と、アリの慎重さや計画性も持ち合わせるため、仕事を溜め込まず、早い段階で部下たちに的確で具体的な指示を出すことを得意とします。
仕事を柔軟かつスピーディに回すことが求められる難しい現場も、「うさアリ」タイプのリーダーなら部下たちを的確に動かし、混乱することなく対応することができるでしょう。
●リーダーとしての課題
「うさアリ」リーダーは具体的な課題や目標、プロセスが明確な仕事を得意としますが、やるべきことが曖昧な仕事は苦手な傾向があります。自分で目標やビジョンを立てなければいけないプロジェクトや、イノベーションを生み出すことを目的とした創造的なプロジェクトでは、やるべきことが見出せずにストレスを抱えてしまいます。
また、非常に優秀であるがゆえに、「仕事は前倒しで終わらせるべき」「できないのは甘えだ!」などと、ハードな精神性を部下に求めてしまう傾向があります。特に、「うさギリス」や「かめギリス」などのキリギリス系の部下が精神的に追い込まれてしまいやすいので、注意が必要です。
●「うさアリ」リーダーへのアドバイス
「自分ができることは、みんなもできる」と思い込むと、部下が疲弊してしまいます。それぞれの部下の性格や価値観を「童話マトリックス」をヒントにして理解し、適切な仕事の配分や権限移譲を行うほか、モチベーションアップのための動機づけやフォローアップを行ってください。
特に、キリギリス系の部下には、それぞれのわくわくすることや、好きなことを把握し、自主性を引き出すコミュニケーションが取れるとチームのパフォーマンスを高めることができます。
「うさギリス」タイプのリーダーの適性と課題
●リーダーとしての適性
「うさギリス」タイプの人は、以下のうさぎの行動傾向とキリギリスの動機傾向を持っています。
「うさギリス」リーダーは、ワクワクすることや新しいことにモチベーションを燃やします。これまでにない新しい企画を考え、チームを盛り上げ、励ましながら目標を達成するチームマネジメントが持ち味です。
柔軟性があり、当初の計画やスケジュールと違ってしまってもこだわらずに軌道修正できますし、もともと短納期のプロジェクトでも一気呵成にゴールに突き進む勢いのあるチームをつくれます。
●リーダーとしての課題
「うさギリス」リーダーはエモーショナルな盛り上げで部下のモチベーションを高めますが、論理性や計画性は弱いところがあります。また、数字管理や申請書の提出などの事務管理は苦手で、後回しにしていてあとで問題になることもしばしば……。
また、そのラフさがアリ系の部下にはストレスとなります。じっくり計画的な仕事を好む「かめアリ」タイプの部下には「いまさら!? なんでもっと早く言ってくれないんですか!」と怒られ、ロジカルな「うさアリ」タイプの部下には「それ、思いつきですよね。計画的で具体的な指示をください」と返されがちです。
●「うさギリス」リーダーへのアドバイス
「どうにかなる」という根拠が曖昧な自信も、「最後に帳尻を合わせよう」と思えてしまう火事場の馬鹿力も、それはあなたが「うさギリス」だから持ち合わせる特性です。ノリの合う部下はいいとして、それに我慢ならない部下もいることを理解しましょう。「結果的にはできてしまう」のでは、気づかずに部下に大きな負担を与えます。
仕事を早めに振り、計画を明確にする、プロセスを言語化する、進行管理を徹底するなどのプロジェクト管理のレベルを高めることが課題です。また、数字管理や事務管理、会社のルールに意識を配り、思わぬリスクを回避しましょう。これらのことが自分ではできないのなら、できる部下に権限移譲して任せることも手です。
「かめアリ」タイプのリーダーの適性と課題
●リーダーとしての適性
「かめアリ」タイプの人は、以下のかめの行動傾向とアリの動機傾向を持っています。
「かめアリ」リーダーの得意分野は、長期的な仕事、またはルーティンをミスなく確実にこなしていく業務の統括です。システム運用や経理などのバックオフィス部門に適性があります。長期的に安定稼働させるための計画立案を好み、隙のないスケジュール管理と人員配置を行います。もしミスが起こってしまった場合は改善策を徹底し、再発させない二重三重のチェック体制を考える、リスク管理を徹底したマネジメントに長けています。
仕事自体に派手さはなくとも、「かめアリ」リーダーが事業の土台を支えることで企業は安定して成長できるのです。
●リーダーとしての課題
地道な仕事を続けられる安定感がある反面、変化に弱く、柔軟性に欠ける傾向があります。突発的なトラブルへの対応は苦手で、短納期の仕事には嫌な顔をしてしまいがちです。
また、保守的な性格から、部下が業務の効率化や新しい設備投資を提案しても、リスクが先に頭をもたげてしまいます。その結果、キリギリス系の部下は自由度の低さにストレスを感じ、やりがいを持てないことも。部下のモチベーションの低下に加え、無意味化しているルーティンワークや無駄なプロセスが多いことで、パフォーマンスの低いチームになっていることがあります。
バックオフィスならまだしも、事業部門を受け持つ場合には、「かめアリ」の特性がチームのパフォーマンスの業績として現れやすいので注意が必要です。
●「かめアリ」リーダーへのアドバイス
自分が先頭に立つよりも、後方から部下を支援し、部下のパフォーマンスを高めるリーダーシップを取ったほうが上手くいく傾向があります。管理能力が高いのですから、思い切って「自由にやっていいよ。問題が起きたら私がカバーするから」と後方支援に徹するといいでしょう。
イメージとしては、野球チームの監督です。生じるリスクを事前に把握し、対策を立てながら長期的な視野で部下にアドバイスを送りましょう。また、無意味化しているルーティンワークやプロセスを省く効率化にもチャレンジしていきましょう。
「かめギリス」タイプのリーダーの適正と課題
●リーダーとしての適正
「かめギリス」タイプの人は、以下のかめの行動傾向とキリギリスの動機傾向を持っています。
「かめギリス」リーダーは、人情のリーダーです。雰囲気づくりや良好な関係性づくりに長け、穏やかな性格がチームの安心感を生み出し、リラックスして働ける環境を整えます。
また、自分に自信がなく、「自分はリーダーに向いていない」と思い込んでいる人が多いのも、このタイプの特徴。しかし実は、部下のタイプを理解して活かす気持ちがもっとも強いのが「かめギリス」タイプであり、異なるタイプの部下同士のチームワークを生み出すことにも長けた、リーダー向きの性格なのです。
●リーダーとしての課題
リーダーとしての実績を上げるまでは、自信のなさがネックになりがちです。部下に対して言うべきことを言えなかったり、部下の提案に対して優柔不断な態度をとったりすることもあるでしょう。優しさが裏目に出て態度がはっきりせず、決断も遅いことが、部下のストレスになってしまう可能性があります。
●「かめギリス」リーダーへのアドバイス
「部下の力を引き出す」ことに、腹を括って注力しましょう。部下とのコミュニケーションを徹底し、仕事上でネックに感じていることや不満、本人のやりたいことや、どうすれば働きやすくなるかをじっくり聞き出してください。
そのうえで、解決できることは解決し、部下の適性に合った仕事を割り振っていきましょう。ムードづくりと徹底したサポートで、チームのパフォーマンスを高めていくのです。ただし、「仲良しチーム」に終始するのではなく、信頼を得ているからこそ、時に厳しさを示すことでチームのパフォーマンスをさらに高めることができます。
みなさんのリーダーとしての課題感とマッチしていたでしょうか? この「童話マトリックス」の4つの性格タイプは端的な特徴を示したものであり、実際にはふたつ以上のタイプの要素を持っていることもあります。
つまり、ここで大切なことは、人の特性を4タイプに還元することではなく、傾向や特徴を観察する視点、多様性を思い描く視点を得ることです。第2話のレーダーチャートに示すように、「うさアリ」が4割で「うさギリス」が6割ということもありますし、わたしが「カメレオン」タイプと呼んでいる、4タイプすべての要素を均等に持つ人もいます。あくまで「傾向」として捉え、リーダーシップ改善のヒントとしてください。
次回は、「童話マトリックス」の性格タイプ別の「1on1マネジメント」を行ううえで必要不可欠な「1on1ミーティング」について解説します。






