※本稿は、マイケル・シェリダン(著)、田口 未和(訳)『紅い皇帝 習近平』(草思社)の一部を再編集したものです。
習近平の家族はエリートのなかでもとくに強欲
「紅い家族」がどれほど裕福なのか、大部分の中国人には見当もつかなかった。
中国の大衆(「老百姓」)は、不平を言いながら日々を過ごしていた。現在は過去よりましになり、将来は現在よりもっとよくなるだろう。そう思わせることが、共産党による大衆の導き方だった。
しかし、社会の上層部には多くの特権的な家族がいて、彼らは将来が訪れるのをじっと待ってはいられなかった。富と贅沢への飢えが野心を駆り立て、良心は捨て去られ、見苦しい欲の世界が創出されて、浴槽の黄金の蛇口に赤い旗が飾られた。
警察国家は富の蓄積を大衆の目からうまく隠す。国民はときおり詳細に報道される贈収賄の裁判を通して、それを垣間見るだけだ。そうした不正はいつも、無私無欲の規範からの逸脱行為として説明された。しかし真実は、エリート層が支配権を握っていたということだ。彼らは権力、強要、暴力の脅しを使い、欲しいものを手に入れた。
習近平の家族はエリートのなかでもとくに強欲な層に含まれた。彼が2012年に権力を掌握するまでに、姉の斉橋橋(1949年生まれ)とその夫の鄧家貴、娘の張燕南は、中国と香港に2億7200万ドルを超える投資と不動産を蓄積していた。彼らの富の源泉ははっきりしないが、習近平が昇進を続けていた時期に資産は何倍にも増えた。
現在、中国を率いるこの一族の保有資産は10億ドルを超えているかもしれない。
出所不明の美談が広まる
強大な権力を持つ支配者層の家族は、自分たちが免責されていると自信を持つあまり、行動を隠すことすらほとんどせず、はっきりした記録を残した。
アメリカの金融ニュース通信社「ブルームバーグ・ニュース」の報道チームが調査にとりかかった。チームを率いた元海軍士官のマイケル・フォーサイスは、「ドキュメント・ガイ」と自称するのを好んだ人物だ。チームは2012年6月に、習一族の蓄財について広範囲におよぶ調査に基づいた記事を発表した。
ブルームバーグの記事が出ると、習近平のプロパガンダ機関はすぐさま行動に移った。習が自分の身内に資産の売却を命じたという噂が――噂の出所はわからないまま――広まった。香港の金融業界では、ファーストファミリーがその考えに同意を示したという話で持ち切りだった。
人々は点心を食べながら訳知り顔でうなずき、習が腐敗にうんざりして中国の汚れを取り除いているという話を繰り返した。女家長の斉心が子供たちを集め、一族は高潔で健全でなければならないと諭したという話も、自信たっぷりに言いふらされた。

