再雇用で働く場合で、年収はほぼ半減する

再雇用の多くは1年ごとに契約を更新する嘱託、契約社員などの非正規雇用だが、定年前とほとんど変わらない仕事を担当しているケースも増えており、それにもかかわらず給与が大きく減少することへの不満を募らせるシニア社員も少なくない。

パーソル総合研究所が21年に公表した「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(本質問項目の対象者は定年後再雇用〈フルタイム、パートタイム等〉で働くシニア従業員591人(*1))では、定年後に再雇用で働く人の年収は平均して44.3%低下していた(図表1)。定年前後での職務の変化については、半数が「定年前とほぼ同様の職務」(55.0%)で、「定年前と同様の職務だが業務範囲・責任が縮小」(27.9%)と合わせて8割強に上った。

出所=『等身大の定年後

一方、処遇の悪化はやむを得ないとある程度は許容できても、「仕事にやりがいがない」「自らの働きが会社に認められていない」などと感じ、働く意欲が下がる場合も少なくない。その要因として挙げられるのが、定年後のシニア社員に対する人事制度である。

定年に達すると、機械的に以前適用されていた職務や役割、能力によってランク分けする等級制度からは対象外となり、人事評価も行われないケースが多い。こうした課題の解決には、ひとつは中高年男性の固定的なジェンダー意識の改革が有効である。出世や報酬、評価などへの執着は、「男らしさ」規範に縛られている面が強く、このため、定年後を「男らしさ」規範の呪縛から抜け出す好機と捉えてみてはどうだろうか。

(注)
(*1)調査対象の定年後再雇用者の性別は男性405人、女性186人。雇用形態の内訳は、フルタイム375人、パートタイム94人、嘱託122人。ただし、パーソル総合研究所によると、雇用形態の3分類には厳密な定義を設けておらず、調査対象者自身が認識して聴取時に答えたもので、勤務する会社が採用している「呼称」。このため、例えば嘱託にはフルタイム、パートタイム双方が含まれるなど、それぞれの分類が重なる概念になっているという。

シニア層への転職支援がますます必要に

次に雇用主側の対策として重要なのが、シニア社員のやる気を引き出す人事制度改革である。

奥田祥子『等身大の定年後 お金・働き方・生きがい』(光文社新書)

定年後再雇用で働くシニア社員を対象とした等級制度を設け、等級に応じた人事評価を行い、処遇を決定するもので、査定によって給与のアップもダウンもある現役並みの仕組みである。無論、現役社員との賃金の均衡を図るため、基本給を定年直前の水準よりも一定割合減額するのはやむを得ないが、そこにプラスする部分を成果主義賃金体系とするのだ。

数多あまたの定年後に再雇用で働くシニア社員たちの話を聞いていると、自身の職業能力に不安を抱いているケースは予想した以上に多い。期待される役割や能力が不明確なだけに、具体的に何を学び、どの技能を伸ばせばいいのか、わからない場合も少なくないのだ。

シニア社員自身がスキル向上のために努力を重ねる必要がある一方で、能力開発・職業訓練への国や企業の支援が欠かせない。雇用市場へのシニア層の流入が加速するなか、雇用主は65歳までの継続雇用期間の間に、定年後再雇用者の66歳以降の継続雇用延長の検討や、転職支援など、次のステップへの橋渡し役を担う必要性が今後ますます高まるだろう。

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