新鮮な鶏肉が“安全”とは言えないワケ

――鶏肉でも新鮮なものであれば、カンピロバクターの汚染は少なく安全では?

「新鮮=安全」ではありません。カンピロバクターは発育に酸素濃度5~10%の環境を必要とする微好気性菌であり、空気環境下では徐々に死滅しますので、むしろ新鮮な鶏肉のほうが食中毒のリスクは高いと考えられます。新鮮な鶏肉の鳥刺しは、カンピロバクター食中毒の主要な原因食品なのです。

写真=iStock.com/Takuya Aono
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――よく消費者のかたから聞くコメントとして、「高級割烹なら鳥刺しでも安全と言われました。あと宮崎の地鶏料理店で鳥刺しを結構食べたのですが、特に食中毒症状は出ませんでした」というのがあるようです。カンピロバクター・フリーの鶏肉を仕入れられるのでしょうか?

日本国内において、カンピロバクター・フリーの鶏肉は製造されていません。鶏肉は全て加熱用として流通しています。

ただ、鹿児島や宮崎など一部の地域においては、生食用食鳥肉の衛生基準が設定されていますので、これらの基準をクリアした「鳥刺し」が流通・販売されています(詳しくは後述します)。

「新鮮」・「朝びき」などと宣伝していると、お魚や野菜と同じイメージで安全だと思われるのでしょうが、実際は逆で、新鮮な鶏肉ほどカンピロバクターによる食中毒のリスクは大きいんですね。

カンピロバクターは加熱や冷凍には弱いので、たとえばブラジル産などの一旦、冷凍している鶏肉のほうが生の状態で菌が死んでいたりします。

ですので、鶏肉のカンピロバクター汚染を減らすために冷凍処理が検討されているくらい、冷凍には弱い菌です。ただし、鶏肉を冷凍すれば鳥刺しが安全という意味ではありません。

“鶏にあたった”は圧倒的に飲食店で起きている

――一般消費者は、市販の鶏肉にカンピロバクターがついていることをご存じないかたが多いかもしれません。鶏肉は加熱すればよい、くらいのイメージでしょうか。

一般消費者の場合、調理の段階で二次的に汚染することもあり、家庭内での食中毒はおそらくそのパターンが多いと思います。鶏肉を買ってきて生で食べるかたは珍しく、ほとんどが加熱調理しておられると思います。

実際は、圧倒的に飲食店での食中毒が多いのが現状で、外食の際に、「朝びき」の地鶏や銘柄鶏がコースの最初に刺身などで出てくることもあるため、外で生の鶏肉を食べることに対して、特に若い世代の人たちは抵抗がない印象です。たとえ食中毒になって下痢をしたとしても、またそれを食べに行ったりするのでしょうね。さらには、生の鶏肉を販売・提供してはいけないという法的な強制力もないので、食品衛生監視員さんも指導が難しいところではないかと思います。