減少傾向だった「カンピロバクター食中毒」が増えている

――やはり新鮮な鶏肉がお店の売りになるんでしょうね。

そうですね。やはり鳥刺しなどの人気が根強くあるのだと思います。

牛の生レバー禁止で減少した分がまた上昇に転じたのは、牛の生レバーが食べられなくなったため、鶏のレバーを生で食べたいとか、豚のレバーを生で食べたいとなったのではないかと……。

なお豚の生レバーは豚肉の生食とともに、その後の2015年に販売・提供禁止になっています。

図表1のグラフは2009〜2023年までの食中毒統計から、カンピロバクターの食中毒の事件数(上)と患者数(下)の推移を示しています。

【図表】カンピロバクター事件数と患者数の推移(2009~2023年)
カンピロバクターの発生件数と患者数の推移は2012年の生食用牛レバー提供禁止とCOVID-19の流行により影響を受けたと考えられる。『食の安全の落とし穴』より

2009年には年間300件で、2000人くらいの患者数がありました。

そこから多少増減しながらも、大体年間事件数は200〜400件、患者数は2000〜3000人ぐらいで推移していたのですが、2012年に牛の生レバーの提供が禁止になって、いずれも少し減少したのです。

腸管出血性大腸菌(EHEC)では、他の要因もあって牛の生レバーの提供を禁止しても届出数や患者数に減少は認められませんでした。

カンピロバクターの場合は、この牛の生レバーの提供禁止によって、事件数および患者数に減少が見られたのです。しかし、その後また元の事件数および患者数に戻ってしまいました。

その後は新型コロナウイルス感染症の流行で外食ができなくなって、2019〜2020年にかけて下がったものの、現在はまた上昇基調にあります。

市販の鶏肉がほとんど菌に汚染されているワケ

――市販の鶏肉のカンピロバクター汚染率はどのくらいなのでしょうか? またカット野菜などで通常行われる次亜塩素酸水による殺菌処理をしないのでしょうか?

小売店での市販の国産鶏肉のカンピロバクター汚染率は食品安全委員会の評価書によると32%~96%(中央値75%)です。

増菌培養をしない定量試験(菌の汚染菌数を測定する試験)でも、40%から50%は検出されます。一部の鶏肉(10%以下)では1gあたり1000CFUを超える高い菌数となっています。

カンピロバクター・ジェジュニ(デジタル彩色)
カンピロバクター・ジェジュニ(写真=De Wood, Pooley, USDA, ARS, EMU./PD USDA ARS/Wikimedia Commons

食鳥処理場では処理工程で通常次亜塩素酸ナトリウムなどによる殺菌処理を行っていますが、次亜塩素酸ナトリウムは食鳥肉などの有機物の存在で殺菌効果が著しく低下することが知られています。食肉処理場での殺菌処理が検討されているのですが、油脂などの存在で実効性が低く、対策は難航しています。電解水、亜塩素酸水なども食鳥処理場での使用が検討されています。