「鶏肉はあたる」と言われるのは、なぜなのか。大阪健康安全基盤研究所の中村寛海主幹研究員は「市販の鶏肉の多くはカンピロバクターに汚染されている。処理段階で菌がついていると考えられ、新鮮な鶏肉ほど食中毒リスクが大きい」という。NPO食の安全と安心を科学する会(SFSS)理事長の山﨑毅さんが聞いた。(第3回)

※本稿は、小島正美、山﨑毅『食の安全の落とし穴』(女子栄養大学出版部)の一部を再編集したものです。

皿の上に3枚の鶏もも肉
写真=iStock.com/karimitsu
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細菌性の食中毒では“カンピロバクター”が一番多い

近年、食中毒の発生件数が多い原因病原体として、アニサキス・ノロウイルスに次いでカンピロバクターが報告されている(厚生労働省食中毒統計)。

一方で、腸管出血性大腸菌(O157など)のほうがマスコミ報道で目立つが、これは、死亡事例が発生することにより、重篤度・インパクトが大きいからだ(特にカンピロバクターは死亡例の報告がほとんどないため、名前すら聞いたことがないというかたもいるかもしれない)。

しかし、健康被害の頻度からいうとカンピロバクターによる食中毒リスクのほうが大きいと言えるだろう。カンピロバクターによる食品汚染と食中毒がなかなか制御できていないのには何か理由がありそうだ。

今回、カンピロバクターに関して研究をされておられる中村寛海先生に、カンピロバクターの特徴とそのリスク低減策についてお話しいただいた。

――厚生労働省の統計報告を見ると、カンピロバクターによる食中毒が国内でよく発生しているようですが、主な原因は何でしょうか?

そうですね。食中毒の全体の件数では、今アニサキスが多いのですが、細菌性食中毒に限ると、ここ20年ぐらいはカンピロバクターの件数が一番多い状況です。

1件あたりの患者数はそれほど多くないのですが、小規模な飲食店で、鶏肉の生食、あるいは加熱不十分な鶏肉を食べる、というのが、ほとんどの原因です。それが減らない理由は結局、鶏肉のほうからのアプローチがとても難しいんですね。

鶏からカンピロバクターはなくせない

――市販の鶏肉からカンピロバクター汚染をなくすことが困難ということですか?

そうなんです。カンピロバクターはもともと鶏が消化管に持っている菌で、鶏に病気を起こすわけでもないので、ブロイラーを飼ってから、鶏肉の生産・流通に関わっているかたがたにとって、あまり痛手がなく、特に対策は必要とされないわけです。

これがもしサルモネラだったら、鶏にも病気を起こすことがあるので、鶏がサルモネラ症にならないようにワクチンが開発されます。

しかし、カンピロバクターは鶏自身に害を及ぼさない菌ですし、そのまま流通しても、お肉として品質も低下せず、何の問題も起こりません。

ただ、鶏は消化管にカンピロバクターを保菌しているので、食鳥肉の処理過程において菌が漏れ出して、処理場内で交差してまわりの食肉を汚染してしまい、市場に出回る頃には、カンピロバクターがかなりの量ついているということです。

――なるほど。そうなると「鳥刺しは大丈夫か?」となりますね。

はい。市販の鶏肉の場合、基本的には生食用はなく、全て加熱用のはずですが、「朝びき」(早朝に鶏を処理し、その日のうちに流通・販売されるお肉)した新鮮な鶏を刺身で食べたい、という消費者側の要望もあり、店側もそれに応じて提供するという構図があるようです。