人間の体は太らないようにできている
狩猟採集民たちは意識してカロリー制限などせず、どの民族も毎日お腹がいっぱいになるまで食事をしています。実際、多くの人類学データを見ても、狩猟採集民の摂取カロリーは、肥満大国であるアメリカ人の平均値と変わりがありません(※5)。
それにもかかわらず、狩猟採集民たちに肥満がいないどころか、うっすらと腹筋まで割れています。まさに彼らは、気づかぬうちに「一生モノのダイエット法」を実践しているわけですね。
それでは、狩猟採集民が自然に痩せている秘密はどこにあるのでしょう? ここでまず押さえておきたいのは、「本来の人間の体は、生まれつき太らないようにできている」という事実です。
ダイエットにお悩みの方からは「はぁ? なに言ってるの? それなら苦労しないよ」と言われそうですが、そうでも考えなければ、狩猟採集民たちが好きなように食べても太らない理由が説明できません。
※5 Kious, Brent M. “Hunter-gatherer Nutrition and Its Implications for Modern Societies”(2002)
遺伝子に組み込まれた体重管理システム
もちろん、この事実は多くの実験でも確認されています。
なかでも有名なのは、バーモント大学が1966年に発表した論文でしょう。このなかで、研究者はバーモント刑務所の協力を受け、受刑者たちに一日1万kcalも食べさせるすごい実験を行いました(※6)。
その結果、参加者の体重はだいたい元の数字から15~25%ほど太ったところで増量がストップ。そこからは同じように食べても体重は増えていかず、さらには実験が終わると、すぐに全員がもとの体重にもどってしまったそうです。
この現象について、肥満研究で有名なキール大学のマンフレッド・ミューラー博士は、次のように言います。
「これまでの科学的なデータを見る限り、人間の体には、自動で最適な体重に調整してくれるための『しくみ』が備わっている」
驚いたことに、私たちの体は、摂取カロリーの量に応じて、勝手に体重をコントロールしているようなのです。
もうおわかりのように、狩猟採集民が太らないのは、この「しくみ」が正常に働いているからです。もし食べ過ぎてしまったとしても、遺伝子に組み込まれた体重管理システムのおかげで、自動的に体脂肪が減っていくわけですね。
このシステムを、今の科学では「セットポイント」と呼びます。
※6 Dayton S, et al “Composition of lipids in human serum and adipose tissue during prolonged feeding of a diet high in unsaturated fat.”(1966)