セットポイントを機能させるホルモン「レプチン」

さて、セットポイントがどのように働いているかを見ておきましょう。

私たちの体重を左右する要素はいろいろありますが、もっともセットポイントへの影響力が大きいのはレプチンという物質です。レプチンは脳に作用して食欲を減らすホルモンで、この働きにより、私たちの体には次のような反応が起きます。

食べる量を増やした場合:空腹感が減り、体脂肪が燃えやすくなる
食べる量を減らした場合:空腹感が増え、体脂肪が燃えにくくなる

カロリーが足りればお腹がいっぱいになって体脂肪が燃え始め、カロリーが足りなければお腹が空いて体脂肪は温存される。セットポイントの働きとは、せんじつめればこれだけの話です。実にシンプルでパワフルな「しくみ」だと言えましょう。ところが、この「しくみ」にエラーが生じると、私たちの体は、真逆の方向に向かい始めます。

いくら食べても空腹感がおさまらず、お腹はいっこうに満たされないまま。そのくせ代謝は大幅に下がってしまい、どんどん体脂肪は燃えにくくなっていくのです。

いったんこの状態にハマってしまうと、あとはデブまっしぐら。どこかで歯止めをかけない限り、体は衰えていくばかりです。

これは、専門的には「レプチン抵抗性」と呼ばれる現象で、脳がレプチンの指示に反応しないせいで起きます(※7)。簡単に言うと、レプチンは必死で「もうカロリーは十分です!」と訴えているのに、脳が「俺はもっと食べたいんだ!」と暴走しているような状態です。

※7 Lippincott' s Illustrated Reviews: Biochemistry 5 th edition Chapter 26: Obesity

肥満の最大の原因は「加工食品」だった

セットポイントさえ正常に働けば、人間は太りません。いくら好きなだけ食べようが、最終的には自然と最適な体脂肪率に落ち着いていきます。実際、狩猟採集民たちは、そうやって引き締まった体をキープしています。

それにも関わらず、先進国で肥満に悩む人が多いのは、セットポイントがうまく働いていないからにほかなりません。その原因はどこにあるのでしょうか?

結論から言ってしまえば、最大の原因はズバリ「加工食品」です。冷凍食品やコンビニ弁当、スナック菓子、ファストフードなど、誰もが日常的にお世話になっているでしょう。

あまりにも身近なせいで気づきにくいですが、これらの加工食品には、現代科学の最先端がつめ込まれています。「やめられないとまらない」といえば某スナック菓子のキャッチフレーズですが、まさに消費者のセットポイントを狂わせ、中毒性を高めるためのしかけが施されているのです。

ハンバーガーを食べる男性のイメージ
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