刑事ドラマ「相棒」(テレビ朝日系)は、2000年から放送されている長寿作品だ。社会学者の太田省一さんは「岸部一徳が演じる小野田公顕がいい。彼の存在が物語に深みを与え、他の刑事ドラマにはない魅力となっている」という――。(第3回)

※本稿は、太田省一『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

エランドール賞の授賞式に花束贈呈で登場した俳優の水谷豊さん(左)と及川光博さん
写真=時事通信フォト
エランドール賞の授賞式に花束贈呈で登場した俳優の水谷豊さん(左)と及川光博さん(=2012年2月9日、東京都新宿区)

もともとは単発の2時間ドラマだった

異端的作品が続々登場して人気を集める一方で、正統派刑事ドラマの系譜を受け継ぎつつ新たな時代のニーズにも見事に適応したのが、『相棒』(テレビ朝日系)だった。

スタートは2000年。最初は連続ドラマではなく、「土曜ワイド劇場」、つまり2時間ドラマの枠から始まった。『相棒』でも、『ケイゾク』と同じく、刑事ドラマのさまざまな要素が盛り込まれ、設定や物語において巧みに配置されているのが見て取れる。

まず、水谷豊演じる主人公である杉下右京というキャラクター自体が万華鏡のように多面体な存在だ。

東大法学部を首席で卒業し、警察庁に入ったキャリア。だが組織内の上下関係には一切無頓着で、上司であろうと間違っていると思えばまったく遠慮しない。そうした扱いづらい性格も相まって、ある事件がきっかけで「陸の孤島」と呼ばれる特命係に飛ばされた。

だが右京自身は、キャリアでありながら左遷されたことなどまったく気にしていない様子だ。他人にはついていけない紅茶へのマニアックなこだわり、チェスや落語、ピアノ演奏などずば抜けた多趣味ぶりにも周囲はついていけず、どこを取っても「我が道を行く」の典型のような人間だ。