いつまでも健康で過ごすにはどんなことが大切なのか。生命科学者で大阪大学大学院の吉森保教授は「細胞の働きを活性化させる『オートファジー』を高める食品を選ぶと、加齢に伴う疾患を予防できたり、寿命が延びたりする可能性がある」という――。

※本稿は、吉森保、松崎恵理『不老長寿の食事術 オートファジーで細胞から若返る』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

ペットボトルのお茶
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです

「12時間プチ断食」に根拠はない

近年、プチ断食が話題です。

「12時間ダイエット」「16時間断食」「半日断食」などの言葉がメディアを賑にぎわせています。

そして、空腹の時間を長くつくるダイエットに共通する最大のメリットが「オートファジー」です。空腹になると細胞内でオートファジーが機能して、体のダメージがリセットされ、体が内側から若々しくなると紹介されています。

オートファジーの専門家としては、研究対象が広く知られるのはうれしい限りですが、同時に違和感もあります。ブームになることで、少し誤解も生まれているなというのが本音です。

例えば十数時間断食するとオートファジーの働きが数倍に活性化するとの主張もありますが、そのようなデータは存在しません。

断食しないとオートファジーが働かないと思われている方もいるかもしれませんが、オートファジーはみなさんの体の中で常に起きています。

確かに「空腹状態=カロリーを抑える」と活性化しますが、12時間にも16時間にも根拠はありません。むしろ、常に体の中で起こっているオートファジーを一定レベルに維持することが健康には重要です。

一食当たりのカロリーを抑えれば効果は同じ

断食は確かに効果が見込めます。カロリーを抑制することは内臓を休ませ、脂肪を燃焼させます。高血糖や体内での炎症も防げるといわれています。そして、オートファジーにも有効です。動物実験ではカロリーを制限すると寿命が延びることがわかっていますが、これはオートファジーによる効果とされています。

一方で、断食でカロリーを抑えるのも一食当たりのカロリーを抑えるのも効果は同じとされています。摂取するカロリー量を抑えられれば、方法は問わないわけです。

つまり、修行僧のように食べるのを我慢せずに一食当たりの食事を腹八分にすれば効果は見込めます。オートファジーも活性化します。

むしろ、極端な断食はデメリットがあります。過度な断食によってオートファジーで分解された筋肉は栄養が足りないために再合成されなくなり、細くなってしまいます。また、絶食している状態から急に食べると血糖値が急上昇し動脈硬化の原因になるという研究もあります。

さて、少し前置きが長くなってしまいましたが、本稿を読み進める前にみなさんに覚えておいてほしいのは、極端な健康法や食事法にはデメリットもあるということです。