インフルエンザのほうが死ぬ確率が高い

デルタ株の次に、2021年の暮れから流行の主役となったのがオミクロン株でした。

感染力が強く、第6波は第5波の約3倍となるおよそ84万人、第7波ではおよそ150万人と、第6波の2倍に近づきました。

しかし、新規感染者に対する入院患者や重症患者、さらに死亡した人の割合は大きく減っています。

厚生労働省の作成したデータ(図表1参照)によると、デルタ株が流行した第5波の時期、80歳以上の重症化率が10.21パーセント、致死率が7.92パーセントでしたが、オミクロン株が主体となった第7波では重症化率は1.86パーセント、致死率は1.69パーセントへと低下していました。

コロナ禍以前に、毎年のようにはやっていた季節性インフルエンザでは、80歳以上の重症化率は2.17パーセント、致死率は1.73パーセントでしたから、オミクロン株はインフルエンザよりも低いのです。

こうした数字が出てきても、日本では、発生当初の「死を招く病」というイメージはなかなか変わりませんでした。外出や営業の自粛、就業制限など、終わりにしてもよいと思われる段階を過ぎてなお、ずるずると続きました。

どんなに弱い病気でも、高齢者にとっては命取り

オミクロン株を「5類」に移行するかどうかで議論になっているとき、こんな声もありました。

「オミクロン株では、重症でもないのに死者が出ているじゃないか。危険だ!」

それまでのデルタ株より感染力が強く、感染者が急増していただけに、危機感を感じた人が多かったのでしょう。読者のみなさんのなかにも同意する人がいるかとも思います。

ですが、重症化しないのに死亡する人がいることこそ、普通の風邪と同じなのです。というのも、風邪で亡くなる人は、けっして少なくないからです。

高齢者の場合、風邪で少し体調を崩したといったささいなことから、亡くなることが多いのです。

90代ともなると、日頃は元気に暮らしていても、ちょっと体調を崩しただけでロウソクの火が消えるように亡くなる方もいます。

寝たきりの高齢者の場合、風邪がきっかけで、細菌性の肺炎になって亡くなることも珍しくありません。風邪のウイルスで肺炎になることはまずありませんが、風邪のために体力や免疫力が落ちた結果、肺で細菌が増殖してしまうのです。

この場合、死亡診断書の死因には「肺炎」と書いてあっても、実質的に「風邪をこじらせて亡くなった」といえます。どんなに弱い病気でも、高齢者にとっては命取りになります。

また、脳卒中などで瀕死の状態となっている患者さんでは、風邪をきっかけに容態が急激に悪化して亡くなることがしばしばあります。

こうした例を含め、風邪をきっかけに亡くなっている高齢者は、毎年少なくとも2万人くらいいると推測しています。総務省による2023年5月の「人口推計」では、日本は人口の29パーセント以上、3621万人が高齢者です。

90歳以上の高齢者も250万人以上います。歳をとればとるほど、日頃は元気にしていても、ちょっとした病気から亡くなるリスクが急上昇します。

「要介護5」(ほぼ完全な寝たきり状態)の高齢者も約58万4000人います。こうした人たちも、ちょっと風邪をこじらせると、わりとあっけなく亡くなってしまいます。つまり、高齢化が世界一進んでいる日本は、ちょっと風邪などで“背中を押される”だけで亡くなる人が世界一多い国なのです。

新型コロナウイルスがいくら風邪と同じくらいに弱毒化しても、一定数の死者は出てしまうことになります。でも、ことさらに問題視する必要はありません。超高齢社会の日本では、死亡者の数は年々増えているからです。

死者の数で新型コロナについて判断することは、もうやめなくてはいけません。