70歳以上の致死率は、第1波から第2波で約3分の1へ
流行当初は、重症化するメカニズムも治療法もわからなかったため、呼吸不全になった患者さんにはECMO(体外式膜型人工肺)を使い、肺をまったく使用しなくてもいい状態にして回復を待つしかなかったのです。もともと全身状態の悪かった患者さんは、回復力が低下しているため亡くなるケースが多かったのです。
世界中で研究が進められた結果、重症化するのは免疫システムが暴走し、自分の体を攻撃していることがわかってきました。
重症化リスクの高い人は抗体カクテル療法で重症化を予防し、重症化した場合も別の疾患用の抗ウイルス薬や免疫抑制剤などを転用する治療法が確立して、死亡する患者さんは少なくなりました。
国立感染症研究所の当時の発表をたどると、致死率は第1波では5.8%、第2波では8月19日時点で0.9%。70歳以上に限ると、第1波では24.5%、第2波では8.7%と3分の1程度に下がっています。
国立感染症研究所は、検査対象の拡大によって、より軽症の症例まで診断されるようになったことをその理由としてあげています。
日本は風邪やインフルエンザの治療に慣れていますので、通常の医療が充実していることの効果もそれなりに大きかったのではないかと思います。
病原性の高い、危険なウイルスが広まる確率はかなり低い
新型コロナウイルスは変異しやすいRNAウイルスに分類されており、流行が始まって数カ月もすると、次々と変異株が登場したことはみなさんもご存じのとおりです。
当初、日本に入ってきたのはヨーロッパと近縁の株で、これで流行の第1波が起こります。そこに、日本国内での変異が蓄積して流行したのが、第2波と第3波。
第4波は「イギリス株」と呼ばれていたアルファ株で、これが2021年の春から夏にかけて猛威をふるいました。
2021年の夏から秋に大流行したのが、インド由来のデルタ株です。感染力が強いとされ、このときの第5波は、新規陽性者数で見れば、それまで最大規模の流行だった第3波の約3倍、およそ20万人が感染しています。
一時期は毎日のように、全国で5000人以上が感染したというニュースが流れていました。
ただ、死亡者数を比べると、第3波の1051人から837人へと減っています。
感染者数から見ると、確実に死亡率は下がっていました。
ウイルスは一般に、感染力が高くなると致死率は下がります。ウイルスの立場では、宿主を殺してしまっては自分も死んでしまうのでそれ以上は増殖できません。したがって、大流行する変異ウイルスほど症状がマイルドになっていくと考えられます。
病原性の高い、危険なウイルスが、突発的に出現する可能性はゼロではありませんが、確率はかなり低いのです。さまざまな変異は毎日おびただしい数で起こっていますが、そのうち感染力が強く、病原性の低いものが生き残るのが普通だからです。