コロナ感染で死ぬ確率、コロナ自粛で要介護になる確率

高齢者専門の精神科医である私は、認知症や老人性うつ病などの患者さんの診察をしていますが、コロナ禍の最中は、本人ではなく家族が薬だけ取りに来院するパターンが増えました。

その際、「足腰は衰えていませんか」「以前と比べて認知症状は悪くなっていませんか」などと、患者さんの様子を家族に聞いていました。

大半の家族からは、「ほとんど外に出なくなった」とか「そのせいでかなり足腰が弱っている」といった答えが返ってきました。なかには、「歩けなくなってしまった」というケースもありました。

これは、使わない機能や器官が短期間で衰える「廃用症候群」と呼ばれる状態です。

とくに高齢者の場合は衰えが激しく、風邪をこじらせて寝込んでしまうと1、2カ月で歩けなくなってしまい、リハビリが必要になることがよくあります。

寝込むほどでなければ、1、2カ月くらい外を歩かなくても、歩行困難になることはまずありませんが、家にひきこもった状態が1年近く続くと、歩行がかなり難しくなることが多いようです。

3年間も続いた自粛生活によって、高齢者の筋力はかなりの確率で衰え、歩行などの運動機能が落ちていると思われます。運動機能の低下は認知機能の低下と大きく関連するので、要介護になる高齢者が急増することが容易に想像できます。

つまり、新型コロナに感染して死ぬ確率からは逃れることができたものの、コロナ自粛によって要介護になる確率は高くなったといえます。数年後に要介護者が急増し、介護費は従来の推計を大きく上回る可能性もあります。

本来であれば、国は、オミクロン株の感染力や重症化率、致死率などの特徴が風邪やインフルエンザと変わらないと判明した時点で、「5類」へと移行し、「高齢者は要介護の予防のために外に出て歩いてください」といった、実質的な安全宣言を出すべきだったと私は考えています。

「コロナは怖い」という印象が強く刷り込まれた

3年余りのコロナ禍の様子を、当初から少し振り返ってみましょう。

2019年12月に、中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの感染者が、日本でも見つかったのは翌20年1月のことでした。2月に入ると横浜港に接岸しているクルーズ船で集団感染が起こり、712人が感染し、13人が死亡する事態になりました。

ただ、このクルーズ船を除けば、3月上旬の時点で、国内の感染者は200名を超えたあたりでした。国民の間に不安は高まりつつも、危機感までは広がっていなかったようです。

ですが、3月にコメディアンの志村けんさんが亡くなって、いっぺんに日本中が危機感に包まれます。政府による「緊急事態宣言」が出され、企業も学校もイベントも飲食店も、およそ人が集まるさまざまな場面で活動自粛が要請されました。

いわゆる不要不急の外出を避けたり、マスクを着用したりするよう強く求められ、同調圧力に、先述したような歪んだ正義感も加わって、息苦しい日々が続きました。

普通の風邪のウイルスがのどや気管支で増殖するのに対して、流行当初の新型コロナウイルスは、肺の最奥部の肺胞で増殖するため、いきなり重い肺炎を引き起こしました。

午前中は落ち着いていたのに、午後になって重症化したとか、軽症だったので自宅待機していたところ、急に悪化して死亡したなどといった報道が相次ぎ、日本中がパニックの様相を呈したのです。

2020年4月をピークとする第1波以降、数カ月ごとにピークが訪れる「波」を繰り返しながら流行し、毎日のニュースで、重症者や死亡者の数が伝えられました。

スマホを見て落ち込んでいる女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

こうして「コロナは怖い」という印象が、繰り返し強く刷り込まれていきました。