対策まで結びつかない「不安」は頭が悪い人の行動

「不安」という感情そのものは、この先に起こりうる悪い事態を回避するためのものなので、本来、決して悪いものではありません。どのくらいの確率で、どのような事態が起こるか。何をすれば回避できるか。

できなければ、どのようにリカバリーするか。リスクを予測して回避策を考え、場合によっては、プランB、プランCで対応を考える。そうしたさまざまな対策も、不安が出発点となります。

しかし、日本人の不安は、対策まで結びつかないことが多いのです。コントロールが働かず、「怖い」「いやだ」という感情ばかり先走ってパニックになりがちです。これは控え目にいっても「頭が悪い人」の行動です。

コロナ禍では社会全体がパニックに翻弄されました。

新型コロナウイルスの感染拡大により、政府による「緊急事態宣言」が出されて、外出や店舗の営業などの自粛や、マスクの着用が要請されたときに、要請に応じない個人や店舗に対して、激しい批判を浴びせたり、私的な制裁を図ったりする“自粛警察”や“マスク警察”が現れたことは記憶に新しいのではないでしょうか。

自宅でエクササイズバイクで働く認識できない女性のクロップドショット
写真=iStock.com/pixdeluxe
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この種の歪んだ正義感もパニックの一つの側面であり、頭の働きを悪くします。不安をコントロールできていれば、「こういうやり方もある」と複数の対策を考えられますが、パニックになっているときは一つのことしか考えられません。

「もうダメだ」と悲観的になったり、「考えたくない」と目を背けてしまったり、「あいつが悪いのだ」と誰かに責任を転嫁したりするのです。

コロナ自粛で大ダメージを被った日本の高齢者

「頭が悪い人」が感情ばかり先走ってパニックになるのとは対象的に、「頭がいい人」は確率で考えることができます。たとえば、コロナ禍での次のような事例を考えると、世の中全体に頭の悪い行動様式が広がっていて、国民全体が損をしたことがわかるでしょう。

国や自治体が、自粛要請をはじめとするさまざまな制限を、国民生活に対して加えることができたのは、感染症法で新型コロナが「2類」の危険な病原体とされたからです。

これが、季節性インフルエンザと同じ「5類」へと移行されたのは、ようやく2023年5月8日のことでした。

この間、3年に及んだコロナ自粛によって、私は日本の高齢者が大きなダメージを被ったと考えています。長期間にわたる自粛を強いられたために、歩けなくなったり、認知機能が大幅に落ちたりする高齢者が、100万人単位で発生すると思われるからです。

たしかに、新型コロナウイルスの流行が始まってしばらくは、感染者が死亡する確率も比較的高かったので、恐れる気持ちはよくわかります。

しかし、2021年の暮れから流行しているオミクロン株は、感染力は強いものの、重症化率や致死率は大きく下がっています。

そのことは早くからわかっていたのですが、感染症法上の位置づけは、デルタ株やアルファ株と変わらず「2類」に相当するとされ、患者さんに対し入院の勧告、就業制限、外出自粛の要請が続きました。

自粛生活により、高齢者は外出しなくなって、歩く機会も距離も大幅に減少しました。また、お腹もすかないので食が細くなって、栄養状態も悪くなったと思います。