安倍さんの心残り、変わらざる思い

総理辞任の記者会見で「やり残した仕事は何か」と訊かれ、安倍総理は次の3点を挙げました。

・北方領土問題を解決して、日露平和条約を締結すること。
・拉致問題を解決して、日朝国交正常化を成し遂げること。
・憲法改正

この3つができなかったことは心残りだとおっしゃいました。

政治家にとって大事なのは、自分はこれをやるんだという信念と目標をもって働くことです。国家の基本を、安倍晋三という政治家は考えていました。ある程度のポストに就いてから考えようとする政治家が多い中で、若いときから一貫して国の軸となる問題について発言してきた安倍さんは、やはり大したものだと思います。

この3つの課題は、まさに安倍さんの遺言になってしまいました。残されたわれわれが、しっかりと引き継いでいかなければと思います。

安倍総理の政権は未来志向で、プーチン大統領と27回もの首脳会談を重ねました。世界の大国であるロシアと日本の間に、平和条約が結ばれていない。国境線も決まってない。これは普通ではないというのが、安倍元総理の変わらざる思いでした。

さらに私は、ロシアと仲良くしていけば中国との関係もよくなると進言し、賛同してくれました。あと1年健康状態がよくて、あのまま総理の座にとどまることができれば、北方領土問題は解決していたと思います。残念でなりません。

撮影=原貴彦

安倍さんが岸田総理に言ったこと

岸田さんが総理に就任して以降、安倍元総理は「シンガポール合意をよく読むように」と言ったそうです。2回言ったと、安倍元総理は私に教えてくれました。

2018年11月の安倍・プーチン会談で、かなり突っ込んだやり取りを行い、結果として「1956年宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる」ことを確認したのが、シンガポール合意です。1956年宣言には、「平和条約締結後、ソ連は歯舞群島、色丹島を日本に引き渡す」と明記されています。

ところが岸田総理の国会での答弁は、北方領土について「固有の領土」「不法占拠」といった言い回しがあったため、安倍元総理はアドバイスをしたわけです。

ウクライナ問題への対応を見ても、バイデン大統領からロシアに制裁をすると言われたら、従ってしまいました。インドのように、独自の立ち位置、判断というしたたかさが必要であり、何よりも将来の日本の国益を考えての外交を展開してほしいと思います。