「トランプ大統領の相撲観戦」秘話
2019年5月にアメリカのトランプ大統領が来日して、安倍総理は国技館でトランプ大統領と大相撲観戦をされました。千秋楽でした。
この件で、相撲協会の八角理事長から私に連絡があったのは、3カ月前のことです。「警備について警察がうるさいが、きちんとやるので、鈴木先生から安倍総理に伝えてほしい」という話でした。元・横綱北勝海の八角理事長は、15歳で角界に入ってから私が後援会長です。翌月、安倍総理に会った際に、「理事長が心配しないでくださいと言っています」とお伝えしました。
千秋楽当日、相撲観戦がつつがなく終わったのを国技館で見届けて、私はがん研有明病院に入院しました。食道がんの手術をするためです。
ちょうど病室に着いたとき、安倍総理から電話が来ました。
多忙な中での心遣いのお電話
「八角理事長によろしくお伝えください。トランプ大統領が大変喜んで、感激したと言っていました。私も本当にホッとしてます」
相撲が終わった直後なのに、心遣いのお電話をくれたのです。さらに、
「あれっ、まだ入院してないんですか。さっき国技館にいましたよね」
「いやいや、直行して、いま着いたところです」
「ああ、そうですか。鈴木先生のことだから、がんなんか吹っ飛んでいきます。心配ないですよ」
と安倍総理は言ってくださいました。後日、八角理事長を総理公邸へ招いて、慰労会も開いてくれました。
慰労会と言えば、これは表に出ていない話ですが、元外務省職員で作家の佐藤優さんと私を公邸に呼んで、食事会を開いてくれたことも忘れられません。そこには、3人しか知らない深い経緯がありました。
最高級キャビア100個をどう用意するか
安倍晋三元総理が外交問題に積極的だった理由は、お父上の晋太郎先生が外務大臣の時に政治の世界へ入ったためでしょう。さらに、お父上が総理の座まであと一歩に迫りながら病に倒れたことも、政治人生に大きな影響を与えたことは間違いありません。
晋太郎先生は、日ソ関係の構築に尽力されました。1990年には100人もの国会議員を連れてモスクワを訪問し、ゴルバチョフ共産党書記長と会談しています。晋三先生も、このとき同行しています。
晋太郎先生が、議員たちにお土産として持たせるため、最高級のキャビアを100個用意するようモスクワの日本大使館に頼みました。大使は「自分には集められません」と断わり、ナンバー2の公使も「できません」と言いました。最高級のキャビアは、当時のソ連ではなかなか手に入らない代物だったんです。
30年前の感謝を忘れない、それが安倍さんだった
しばらく経ってから公使が「ちょっと待ってください。用意できる人が一人いるかもしれません」と名前を挙げたのが、外務省の職員でモスクワに駐在していた佐藤優さんです。公使が連絡したら、佐藤さんはさっそく次の日、100個の最高級キャビアを抱えて来たそうです。ロシアの現地事情に精通し、何事にも抜かりのない佐藤さんらしい対応です。
安倍総理は2017年3月、総理公邸に私と佐藤優さんを招いて、食事会を開いてくれました。30年近くも前の、晋太郎先生のモスクワ訪問での出来事をちゃんと覚えていて、佐藤さんに向かって「あのときは大変お世話になりました」と頭を下げたんです。立派なものだなと思いました。
安倍さんの気骨を私が最初に感じたのは、2000年秋のことです。飢饉が伝えられた北朝鮮への人道支援として、日本政府は50万トンの米を送ることを検討していました。世界食糧計画(WFP)が要請したのは約19万5000トンでしたから、日本単独で大幅に上回る量を決めようとしていたのです。