五月人形に求める「色の好み」が多様化している

ライフスタイルの多様化やコロナ禍で新しい生活様式が根付いたことで、顧客のニーズはどう変化しているのか。

横山社長は「ここ10年間でカラーバリエーションの好みが多様化している」とし、次のように説明する。

「以前は、金や黒色の鎧飾りが主流でしたが、コロナ禍では木目調のものが好まれる傾向があります。また、若大将飾りの見た目については、可愛らしいものやキリッとしたお顔のものの人気が高まっています。重厚感を求めるシニアのお客様に対し、今の家族世代は部屋のインテリアに合わせることを重視されます。ニーズは確実に変化しており、商品のラインナップを増やさないと、お客様からのいい反応は得られないと感じています」

撮影=小野さやか
コロナ前は親子三世代での来店が多かったが、現在は祖父母のみや、夫婦と子供だけでの来店が中心だという

加えて、鯉のぼりに関しては直近の20年で相当ニーズが変わっているという。

「ひと昔前までは、1.2mや1.5mの鯉のぼりをマンションのベランダに出す家庭が多かったのですが、騒音問題や高層マンションの増加に伴い、需要がかなり縮小したんです。代わりに、今では家の中で飾れるタイプの鯉のぼりを買い求めるお客様が増えています。我々も、従来の素材に加えて、ぬいぐるみで使用するちりめん素材の鯉のぼりを用意したり、室内で飾れるサイズの商品を用意したりと、ニーズに応えられるように工夫しています」

「西洋式の生活スタイル」が課題になっている

「日本古来の生活スタイル」と、現代に根付く「西洋式の生活スタイル」の発想の違いが、「マーケティングの観点で非常に鍵であり、同時に課題でもある」と横山さんは話す。

「かつての日本は、手狭な家の中で『どうスペースを確保するか』を考えながら生活していました。例えば、ちゃぶ台や布団は使う時に出して、使い終われば片付けていましたよね。そのため、ひな人形や五月人形を飾る季節になると、家具をどかして人形を置く場所を作っていたんです。しかし、今はベッドやテーブルが主流になっていて、そもそも『物をどかして飾る』という発想がありません。難しいところではありますが、少し家具の位置をずらすだけで希望の商品を置けることもあるため、物をどかして飾ることを認識してもらい、ニーズをどのように掘り起こしていけるかが、今後のビジネスで肝になってくると考えています」

さらに、一度ネットで調べてから店頭に訪れ、購買するまでの滞在時間をできるだけ短く済ませる人も増えてきたという。