コロナ禍で「今まで直面したことのない困難」に立たされた
久月は天保6年(1835年)に創業し、日本の人形文化の伝統を受け継いできた。長年にわたって五月人形やひな人形の販売を手がけ、業界を代表する人形の製造問屋としての地位を築いている。
その一方で、近年では少子化や住宅環境の変化も起きている。五月人形の売上はどう変遷しているのだろうか。
久月の横山久俊代表取締役社長は「コロナの影響でお客様の流れが激変し、一時期に比べて売上が大きく減少している」と苦境に立たされている心境を語った。
「売上に関して、長期的には微減傾向にありました。ただしそれは、想定の範囲内のものです。大きな変化が起きたのは、2011年の東日本大震災と2020年から続く新型コロナパンデミックでした。前者の場合、関東では落ち込んだものの、関西は通常通りに売れていたこともあり、売上は割とすぐに持ち直したんです。それが今回のコロナ禍は、全国規模の感染症だったため、今まで直面したことのないような苦難を経験しました」
5月5日の「端午の節句」の際に需要が高まる五月人形は、平時であれば3月中旬~4月にかけて購買のピークを迎えるそうだ。
しかし、2020年4月に発令された緊急事態宣言により、百貨店や量販店が休業や営業縮小せざるを得ない事態に陥ったことで、「予想だにしなかったパンデミックで大きな痛手になってしまった」と横山社長は言う。
ECの販売が伸び、2021年以降の売上は回復基調に
そのころ、久月の直営店には「何時に行ったらすいているのか」「感染症対策は大丈夫なのか」といった問い合わせが相次いだ。店頭への来店ハードルが高くなってしまったことも、売上減少の大きな原因になったという。
こうした危機的状況を打破するため、これまでの店頭販売からECヘ一気にシフトし、新たな販路確保に乗り出した。
「コロナ禍の直前に始めていた自社の直営ECサイトのほか、百貨店や量販店もECを強化する流れが生まれたことで、想像以上にネット販売が堅調に推移しました。こうしたECの伸びが幸いし、2021年は2020年の売上を上回り、2022年も同じ見込みです。ですが、まだまだ2019年と比べると下回っている状況ですので、どう復調させていくかが課題になっています」