高齢になっても若々しくいるにはどうすればいいか。慶應義塾大学の伊藤裕名誉教授は「仕事のストレスから解放された定年後の生活は刺激に乏しく、心身の老化につながる。ストレス状態にあることと若々しさには相関関係がある」という――。

※本稿は、伊藤裕『なぜストレスフルな人がいつまでも若いのか ストレスを使いこなす! 6つの金のメソッド』(Gakken)の一部を再編集したものです。

シニアカップルがビーチでダンス
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外部刺激が病気の原因という「大発見」

そもそも、「ストレス」とは何なのか。医学的にひもといてみたい。

医学の世界でストレスという言葉が使われるようになったのは、それほど古いことではない。1930年代から40年代にカナダ人の生理学者、ハンス・セリエ博士(1907~1982)が発表し広まった「ストレス学説」がきっかけだ。

ハンス・セリエ
ハンス・セリエ(写真=ジャン=ポール・リウ/モントリオール大学情報部門/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

ストレスは英語のstressで、「力」「強調」などの意味の言葉だ。英語の発音で強くアクセントをつける印を「ストレス記号」というが、あれである。

それまで学術的には、主に物理学の分野で用いられていた言葉で、たとえば、水平に置かれた板の中心に圧力をかけると、板がゆがむ。このゆがんだ部分のことをストレス(状態)と呼び、ゆがませた外的な刺激(圧力)のことを「ストレッサー」と呼ぶ。近年は「ストレス」「ストレッサー」の概念をひとくくりにして、「ストレス」と総称されることが多い。

セリエ博士は、外的な刺激、つまりストレッサーの影響で、体内に特定のホルモンが増え、さまざまな反応が起こることを突き止めた。当時の医学界では、病気の原因は病原体であると考えられていたので、外部刺激から病気が引き起こされるという説は、大きな変革をもたらした。

ラットを使った動物実験で分かったこと

セリエ博士は、実験動物のラットを2つのグループに分けて、一方のグループに卵巣や胎盤の抽出液(エキス)を注入して、体内にどのような変化が起こるのかを調べた。そして、もう一方のグループには、外傷、高温、低温、拘束、過剰な運動負荷など、さまざまな刺激を与えてみた。すると、物質を注入したグループと、刺激を与えたグループとで、体内に同じような変化が起こったのである。

これらを観察し、セリエ博士は、ヒトの病気の発病初期によくみられる症状である、舌の荒れ、発熱、胃腸障害、身体の痛みなどは、原因はなんであれ、同じ仕組みで発症するのではないかと考えた。

セリエ博士は、多種多様な刺激によって実験動物に一定の変調が表れることを観察し、「生体に作用する外からの刺激に対して、身体に生じたひずみの総称」をストレス状態とし、その刺激を「ストレッサー」と定義した。