「ストレス=悪」ではなく、よい面もある
「外部刺激によっても、体の中で生じる病気を起こす原因(病因)と同じような反応が引き起こされる」という研究は当時、非常に注目された。のちにセリエ博士はノーベル賞を受賞する。
この説は非常に画期的ではあったが、「ストレスは病気を引き起こすものだ」という部分が衝撃的だったために、その部分が独り歩きしてしまった。
後にセリエ博士は自身の理論を修正し、「よいストレス」(ユーストレス、eustress)と「悪いストレス」(ディストレス、distress)という概念を導入した。
ストレスそのものが悪いわけではなく、ストレスの種類やその対処方法が重要であると強調した。また、ストレスにはよい面もあり、人間の成長や適応、創造性を引き出し、健康にプラスに働く面もあるとも主張した。
適切なストレスは健康や幸福感の向上に関与する可能性があるという考えもしばしば語り、「ストレスは人生のスパイスである」という言葉も残している。
ストレスは生きていく活力を生み出し、人生をイキイキと輝かせてくれる調味料のようなものだというのだ。
人間が持っている「火事場の馬鹿力」
身体がなんらかの変化を感じると、それに反応し、対応しようとする。
その反応は、ストレスへ抵抗しようとして起こっているもので、「元の状態に戻そう」──つまり、「よくなろう」として起こっているものである。
刺激を感じると、体は大急ぎでエネルギーを出して、平常の状態に戻そうとする。それが、身体機能をパワーアップさせ、われわれの行動を促すのである。
小さい動物が天敵に出くわし、必死で逃げる様子を想像してほしい。恐怖や危険を感じると、行動力を高めるアドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、血流をよくしようと心臓がドキドキと早打ち、血圧を上げ血管を収縮させる。そして、集中力や判断力が高まる。そうしてエネルギーが集中し、脱兎のごとくというが、信じられないスピードで逃げ去っていく。
われわれ人間も、危険を感じると、心臓が脈打ち、呼吸が速くなり、思ってもみなかった力──「火事場の馬鹿力」と呼ばれるようなとんでもない力が出ることがあるのだ。